雨の中、南越谷の工場見学に行ってきた。
午後四時二十分にみどりの窓口の前に全員集合して現場に向かうことになっていた。
私は三十分も早く到着してしまったので、みどりの窓口の壁にもたれ掛かってひたすらスマホを弄っていた。
三十分なんてあっという間だった。
GUで買ったストライプのチノパンに、赤いジャンバーを着て、白い安全靴を履いて行った。
貴重品を持ってくるなと言われていたので、財布を持たず、交通費だけを持って家を出た。
赤いジャンパーのポケットに、メモ帳とボールペンとスマホを入れ、身軽な格好で集合場所へ向かった。
待ち合わせ時間のギリギリになって、漸く人が集まってきた。
一人はブッチしてドタキャンしたようだ。
なんという非国民。
こういうヤツがいるから私まで疑われる羽目になるんだよな。
派遣会社の部長と署長、そして私を含めた作業員が三名。
女は私だけだった。
署長は私にこう言った。
「いいかい、とにかくこの現場は挨拶が大事なんだよ!わかるか?」
「ハイ、承知しております!」
「頷くだけじゃダメなんだ、ちゃんと大きな声で挨拶をしてくれ」
「ハイ、わかりました!」
「ヨシ、その返事でいい。頼むぞ!!」
「ハイ、わかりました!」
非国民はまだいた。
現場に向かっている最中、部長と署長を目の前にしてずっと他の取引先会社と電話していたヤツ。
「キミ、今誰と電話していた?この時間も勤務中だと思って欲しい」
「女の人です!」
「いや。。。そう云うことじゃなくて、仕事の電話かな?」
「そうです、明日の仕事です」
「他の派遣会社か?」
「そうです」
「あのね、今から行く現場が受かったらどうするんだ?明日から来てくれと言われる場合もあるんだぞ?」
「あ、じゃあ断ります」
やれやれといった表情で、半ば呆れたように部長はこう言った。
「もういいよ、明日はキミは出られないと俺から先方に伝えるから。。。」
「あ、そうっすか!」
いやいや、すみませんありがとうございます!だろ。
もう一人の非国民は遅刻。
こんな奴らばかりだから、私まで同じように見られるんだよな。
それぞれの非国民の年齢は私よりどう見ても下だった。
埼玉県の遠い場所から通おうとしているようだったが、どいつもこいつも大丈夫なのか?
しかし奴らの強みは、予定が白紙だと云うことだった。
毎日でも出られます、というのに対して私は週三日、土日休みだ。
きっと工場の派遣の仕事と云うものは、私のような真面目な人間よりいつでも出られる奴らの方が圧倒的に有利なんだよな。
案内された工場は、想像を絶するほど綺麗な現場だった。
駅から徒歩十五分~二十分ほど掛かるのがネックだが、仕事内容も教えてもらえればできそうな内容だった。
皆がキャップ帽を被り、紺色のドカジャンに紺色の作業ズボンを履いていた。
広いフロアの中には小さなダンボールが沢山積んであって、フォークリフトが動いていた。
フォークリフトの上に選別したダンボールを乗せて指定された場所に指定された数を運ぶ。
ダンボールの中身は食品ばかりで、室内温度が八℃。
ドカジャンが大好きな私としては、富山県時代の製造業を想い出して懐かしい気持ちになってしまった。
「ここ、悪くないかも知れない!!」
しかし、八時間勤務なのだ。
日々文章を書く時間も無くなってしまう。
それは私にとって最大のデメリットだった。
せめて午後五時に仕事が終わればいいのだが、午後七時までだと帰宅するのは午後九時を過ぎてしまう。
晩酌する時間もない。
ただ、自宅から徒歩二分のスーパーの仕事が落ちてしまえばこの現場を選ぶしかない。
それでも仕方ないと思うことができた。
ぶっちゃけ、いい工場だったからだ。
ふざけんなと思っていた派遣会社の担当者も悪いヤツでもないような気がした。
もっと謂うならば、そこで働いている人々が生き生きとしていて羨ましく感じたのだ。
デメリットは沢山あるのだが、なんとなく心惹かれたと云うのが正直なところ。
やはり労働者の姿って美しいよな。