橋岡蓮 ’s diary

単なる日記でもなければ、単なるエッセイでもない

手の震え、大丈夫なの?

週末のパン屋さんは忙しい~!

普段三人態勢なのだが、金曜日ということもあって四人態勢だった。

それなのに忙しかったのは気のせいだろうか。

初顔合わせの二十三歳の男の子がいた。

かなり仕事ができる人のようで、ジャンジャンパンを焼いていた。

私は掃除から始まり、揚げ物を担当した。

ポテトフライ、フィッシュ、タツタ、コロッケの順番で、それぞれ揚げる時間が違う。

メモを見ながらそれらを揚げている間に、賞味期限が迫っている商品の値引きシールを貼ったりしていた。

熱が冷めたポテトフライを袋詰めし、店頭に並べて行く。

そんな作業をしている時、主任が私に声を掛けた。

 

「橋岡さん、手の震え、大丈夫?初日からずっと気になっていたのよ。ご病気なの?病院通っているの?」

 

面接の時に、通っている病院は無いと答えてしまったので、心苦しかったが主任にも嘘をついた。

 

「いいえ、通っていません」

 

事実、手の震えの原因はわからないのだ。

緊張したりするとガタガタと震えてしまうし、常時小刻みに震えている。

そうか、主任は気にしてくれていたのか。

 

「精神的な問題?メンタルから来るの?」

「ハイ、昔からなんですが、緊張したりすると激しく震えちゃうんです」

 

それは本当のことだ。

 

「緊張するのは仕方がないけど、大丈夫だから。ゆっくりやりなさいね。安心して平気だから」

 

私は目頭が熱くなった。

なんて優しい言葉を掛けてくれるのかしら。

手が震えているのは、たぶんアル中ではない。

もう二十代の頃から、手の震えには悩んできたのだが、主治医にも言っていない。

恐らく服薬しているための副作用だと思っている。

感情のブレ幅を無くすために十年以上飲み続けている。

しかし、自宅に一人でいる時は平気なのだ。

ところが旦那の前でも震えてしまう。

人前に出ると完全アウトだ。

だから接客業でもできる仕事が限られている。

手元を見られるレジやアパレル、ウエイトレスはできないわけだ。

そんな私にとって、丁度いい仕事が見つかったと思った。

工場でもなく、炎天下の中で働く労働者でもなく、パン屋さんだった。

手が震えることはもう仕方のないことだが、主任が私のことを理解してくれた。

一安心した。

 

況してやこの日、念願だったフィッシュバーガーを作らせてもらった。

 

「主任、フィッシュバーガーが売り場に一つしか残っていませんよ!」

「あら、そうなの。よく気が付いたわね。少し慣れてきたわね。じゃあ橋岡さん、作ってもらえる?」

 

マジか!褒められちゃった!おまけにフィッシュバーガーが作れるぞ!

私は途端に嬉しくなったが、相変わらず手が震えてレタスを挟むのに手古摺った。

 

「橋岡さん、これはこうするのよ。ゆっくりでいいから」

「ありがとうございます!ハイ、わかりました」

 

おぼつかない手で、レタスを二枚に千切りながらなんとかパンの中にそれを収めることができた。

その上にソースとマヨネーズがかかったフィッシュを挟んで袋詰めして値札を貼って店頭に持って行って並べた。

どうか私が作ったフィッシュバーガーが売れますようにと祈りながら。

 

漸く一段落かな?と思ったその時、別のベテラン女性から声を掛けられた。

 

「橋岡さん、その作業は中断していいから、これ食べてみて」

「いいんですか?」

「試食して欲しいのよ」

「わかりました、戴きます!」

 

マスクを外し、床にしゃがんでシュークリームやクロワッサンの切れ端を食べた。

 

「どう?どれが一番美味しかった?」

「シュークリームですね」

夏みかんクロワッサンはやっぱりダメよね。広告の品なんだけど。私ならお金払って買わないわ」

「私も買いませんね」

 

二人でゲラゲラ笑った。

もしかしたら、彼女も私に仕事を教えながら、手が震えていることを心配していたかも知れないな。

主任が上手く話してくれますように。