「とにかく旦那さんと仲良くなれればいいわね!」
「たぶんなれるよ、向こうも気を遣ってくるから」
「今回は仲良くなるのが目的だから、細かい話は言わないようにするわね」
これだけを打ち合わせするのに、三時間の長電話が必要だった。
母さんに言われたのはただ一つ。
「ウチのお父さんより、蓮の旦那さんの方が遥かにマシよ!」
よくよく話を聞いていると、確かにそうだ。
私は旦那がどこで何をしているかわからないと云うのは耐えられないからだ。
父親は何も言わずに、土日泊まりでどこかへ毎週行くようだ。
私ならどこで誰と会っているのか知らせてくれない限り無理だ。
またもや疑心暗鬼になって、不安に陥ってしまうだろう。
旦那の良いところは、仕事が終わったら直行直帰するところだ。
それは私に対して絶大なる安心感を与えてくれる。
私が物足りないのは、私に対して興味関心が薄いところだ。
しかし、母さんは言う。
「あのね、男なんてそんなものなのよ!」
確かにそうかも知れない。
私に対して圧倒的に興味関心を抱いてくれた人が今までいたか?
不倫相手くらいだろうが!!
今まで母さんがどれだけ寂しい想いをしてきたかと云うのが手に取るようにわかった。
沖縄でほとんど苦労を知らず、周りから可愛がられて育った一人の娘が、結婚して急に北海道へ渡って寒さもこたえただろうなぁ。
母さんは、その当時、沖縄を出たいという一心で結婚したそうだ。
せまい島国から抜け出し、もっとグローバルに生きて行きたかったとのこと。
両親、つまり私の祖父母からは大反対されたそうだが、若かりし頃の母さんは強行突破したそうだ。
私はと云うと、一人暮らしの生活に疲れ、歳も歳だし早く結婚と云うものがしたかった。
選ぶ余地などなかった。
たまたま旦那が現れ、毎日ブログにコメントをくれ、私が出演するライブを見に来た旦那がプロポーズしてきて、それに乗ったという話。
母さんは言う。
「結婚なんて、皆そんな感じでしてしまうものなのよ」
確かにそうかも知れない。
あの時どうしてよく考えなかったのか、と云うのは後の祭りで、ほとんどの人はあまり深く考えずにしてしまうものなのだろう。
徹底的に話し合ったり、付き合ったりしてから結婚した人は上手く行っているのかも知れない。
まぁ、母さんが言うにはこういうことだ。
「蓮はまだ新婚なんだから、これからなんぼでも変わって行くよ!」
おいおい、そういうものかい?
それなら別にいいんだけどね~。
五十七歳にもなる男が、環境の変化で変わって行くとは思えないのだが。
悪いけど、私はこれからどんどんいい意味で成長して行こうと思っている。
仕事も身に付けて、いつ捨てられてもいいように準備しなくちゃならない。
結局母さんに、レスだとは言えなかったが喫煙者だとはカミングアウトした。
「え?まだ吸ってるの?煙草なんて高いだけで、百害あって一利なしよ!煙草なんてやめなさいよ」
「それが、止められないのよね…」
「自ら身体に悪いことしなくたっていいでしょう。もう世界中が煙草は一番ダメだって言っているのに」
だって、私は少数派で生きているもん!とは言えなかった。
母親に留めを刺された。
「煙草止めれば、北海道までの旅費くらい貯まるでしょ?お金ないクセに随分リッチな生活しているのね」
こりゃ、親の前では煙草吸ってる姿は見せられないな。
旦那には、めんどくせって言われちゃいそうで言えない。
私は平気だけど、果たして旦那は禁煙状態に耐えられるだろうか?
念のため、携帯灰皿持って行って、外で吸わせるしかないかな。
あと十日間、私は母さんに気を遣い、旦那に気を遣い、なんかヘトヘトになりそうだが頑張るしかない。
禁煙かぁ~。
確かに、吸うよりは吸わない方が良いのだが。
寂しさを感じてしまうのは、私だけだろうか。
少数派の一人として、ね!