結局市役所を行ったり来たり、スニーカーを履いて出て本当に良かった。
離婚届は無事に受理された。
正式に独身に戻ったわけだ。
終わってみれば、あっけなかった。
まぁ、子供もいないし、こんなものなのかも知れない。
結局私は都合がいいだけの女だったのだろう。
大して文句も言わず、自分のことは自分で遣り繰りしてくれる。
実に便利な女だ。
かといって、家事など私はほとんどやらなかったので、元旦那からしたらいてもいなくても変わらない存在と化していたように思う。
私がいなくなれば、旦那にとっては好都合なことの方が多い。
良かった、良かった。
私も晴れて自由の身になれた。
もう気持ちを切り替えて、前に進もう。
仲間達は若干私のことを心配してくれていて、このようなことを言ってくれた。
「心の穴は、仕事に死に物狂いになることで埋められる」
そういうことだよね。
仕事に熱中するしかないよな。
それ以外に私には一体何があるだろう。
どう考えても、仕事しかないでしょう。
これから下手したら三十年くらい生きてしまうかも知れない。
というより私の目的は、長生きすることではなく、いつ死んでも悔いのないように生きること。
まずは離婚を達成した。
ここから先は、仕事に専念するのが一番だ。
そう考えると、仕事というものはブレないように私の中に居座っているものかも知れない。
心に穴が空いた時、過去を振り返ると生き甲斐になるような仕事が見つかっていなかった。
だからフラフラと欲望のままに流されていた。
しかし、もう同じ過ちはしない。
めちゃくちゃ忙しくしているうちに、生まれ変わることができるだろう。
一ヶ月後には今抱えている感情なんて、嘘みたいに消えてなくなっていることだろう。
さて、ステージが変わる。
私に待ち受けているものは何だ?
それをワクワク楽しみに前へ進もう。
何もかも捨てて革命を起こした者に用意されているギフトとは一体何者なのだろう。
ただ、私は今までのように理解者を求めたりすることはやめた。
恐らく私のことは私にしかわからない。
当本人ですらわからないことが山ほどあるっていうのに。
第一、あんなに別れたかった旦那と別れても、なんだかハッピーではないことの意味がわからない。
どうして私の心に穴が空くのか謎である。
まるで私が振られたみたいだ。
いや、たぶん私の方が想いは強かったのだろうな。
あまりにもあっさりしている様子を窺って、傷付いたのだろう。
友人曰く、利用価値があると思って結婚した場合、そんなもんだと。
つまり、私って女は、結婚相手から愛されなかった女だということだ。
イタタタ、でもこれが事実だろう。
私はこの先、誰かと愛し合うことはあるのだろうか。
愛される前に、自分以上に大切だと思える人に出会えるのだろうか。
なんとなく、出会える気がしない。
母は強しじゃないけれど、この人のためなら頑張れるっていう何かが私には見つからないような気がする。
そうすると、やはり今まで通り、目には見えない読者を信じて書き続ければ良いことになる。
こう見えて私は武士道精神を重んじている。
最初からそうだったわけではなく、漠然と信じていたものが武士道だったというだけの話なのだが。
私を知る誰もが言う。
「橋岡蓮は一人になってなんぼ」
スタート地点に返り咲きしたわけだ。
これから好転してもらわないと困る。
私って女は一人に弱いけれども、孤独を味わってこそ磨かれて行くものと思っている。
だから全ては結果オーライ。
今更、反省のLINEや心配のLINEをもらったら、かえって混乱して自己嫌悪に陥ってしまう可能性があるので、シャットアウトした。
そうすることでしか、私の中から消えてくれないし、自分で自分を保てない。
私から出て行ったクセに、なぜこんなにも落ち着かないのか、まるでおかしな現象だ。
だけど目の前には階段しかない。
毎日、一段ずつ登るのみ。