母さんと合流した途端、母さんの顔が歪んだ。
「蓮、化粧してきなさい!!前回会った時より具合悪く見えるわよ」
「あ、せめてファンデーション塗った方がいいかな…」
「当たり前でしょ!!!」
流石、美意識の高い母さん。
すっぴんで母さんに会ったら叱られるかも知れないと思っていたら案の定だった。
慌ててトイレに駆け込んで、大急ぎでファンデーションを塗って母さんの元へ戻った。
少々太ったことは指摘されず、日焼けのことだけこっぴどく叱られた。
「せっかくシワがないのに日焼けしてどうするのよ!!」
「先月イベントがあって、猛暑だったのよ…」
「帽子も日焼け止めも無しで行ったんでしょ?歳を考えなさいよ、歳を」
「だよね…」
そして慌てて北千住の丸井で帽子を買った。
実は来月地方へ行く用事がある。
真夏の暑さ真っ盛りに被って行く帽子が買えて良かった。
黒かベージュか迷ったが、母さんがベージュにしなさいと言っていたのでベージュにした。
その後、タイ料理の店でビールを飲んで、海老のカレー炒めやイカのパクチーサラダを食べてホテルに戻ってこれを書いている。
セブンイレブンで、トリスハイボールを買ったのだが、タイ料理の店で飲んだビールに少々酔ったようだ。
トリスハイボールが全然進まないまま、これを書き進めている。
箱根へ向かう朝は早いので、五時に起きて二度寝している暇はない。
大急ぎで風呂に入り、きっちり化粧して、待ち合わせ場所のロビーに向かわなくてはならない。
というのも、初日だけは別々の部屋を予約したのだ。
なぜなら、三日間ずっと一緒じゃ疲れるからだ。
私は喫煙者、母さんは非喫煙者。
気を遣ってくれたようで、私は自分だけの空間で伸び伸びとしている。
久々のホテル泊は、悠々自適である。
北千住の街のど真ん中にあるこのホテルは割安ではないのだが、それなりにアメニティなど充実していて、シングルの割に部屋が広い。
私ならもっと安いホテルを予約するのだが、母さんのご用達のホテルである。
窓からは北千住の夜景が一望できる。
大浴場があるとのことなので、朝起きてから行ってみようと思っている。
二日目はいよいよ箱根湯本へ行く。
バスで行くと思いきや、地下鉄で一本だそうだ。
ランチを堪能した後、ポーラ美術館へ行く。
私はそこに何があるのかわからないが、母さんの一番の目的はポーラ美術館だそうだ。
見物を終えたら、さっさと温泉宿へ向かい、温泉を堪能したいがどうなることか。
夜は海鮮料理が食べられるとのこと。
日本酒は酔うので、温泉に来てまでハイボールを飲むかも知れない。
時間はあっという間。
瞬く間に過ぎてゆく。
こうして本当に話したいことも話せないまま、お別れしてしまうと後悔する。
あまりスケジュールを詰め込まないで、のんびりと過ごしたいものである。
母さんは前回会った時より少しスリムになって、一段と可愛さが増した。
しかし、タイ料理の店で話したのだが、どんな人にも真剣になり過ぎて疲れてしまうから友達を作らないのだそうだ。
私は父と母の子。
半分は父さんの血が流れているわけで、父さんの良いところと母さんの良いところを合体させたような人間に育った。
父さんの良いところは、いい意味で適当なのである。
自分に甘さがある分、人にも甘い。
母さんは自分に厳しい反面、人にも厳しい。
私はその両方の血を受け継いでいるので、自分に厳しいが、人には甘いのである。
だから適度に友達もいるし、人間関係に悩むこともない。
その点母さんは、潔癖なので人付き合いができないのだ。
私としては、母さんが死ぬまで最高の友でいようと誓っている。
その点、父さんは自由人なので人生をエンジョイしているけどね。
さてさて、母さんの一番の願いは、私が立派になることだそうだ。
私としては、もう少し人間らしい生活を送れれば、これでいいのだけどね。
まぁ、心配でしゃあないんだろうね。