女は死ぬまで女である。
この職場にいると、それを痛感してしまう。
何故なら利用者さん方の美意識がとても高いからだ。
主に八十代、九十代の方ばかりなのだが、私でもしないようなお手入れを欠かさない。
あせもが出ないように風呂上りに背中にパウダーやクリームを塗ったりしている。
それに感動した私は、心の底から美意識の高さを褒めてあげた。
すると、私から褒められたことが嬉しかったようで、少女のように照れながら笑うのだ。
なんて可愛いんだろう。
私も見習わなきゃな、などと言ってあげると益々照れているのである。
可愛いとしか言いようがない。
こんな方もいた。
このリハビリセンターは、私を入れて女性スタッフ二名、他は全員男性スタッフだ。
私としては気楽で最高に働きやすく、完璧な職場だが、女性の利用者さんからしたら不満もあったようだ。
お風呂やトイレ、おむつ交換など、女性スタッフにやってもらいたい場面が多々あったとのこと。
デリカシーがあるのである。
つまり、女性である私がスタッフとして入ったことは、女性の利用者さんから大変喜ばれたというわけだ。
早速名前を覚えてくれて、トイレに行きたい時は、私のことを呼んでくれた。
私、マジで嬉しいんですけど!!!
覚えられないからと、キッチンペーパーに名前を書いて渡したら、綺麗に畳んでバッグの中に閉まってくれた。
マジ、泣きそう!!!
人から必要とされることを何よりの喜びとする私にとって、こんなに嬉しいことはない。
そうだよね、お年寄りとはいえ、皆、女なのだ。
男性スタッフには言い辛いこともあったであろう。
もしかしたら、今までトイレを我慢していたりしていたこともあったのかななんて思ったら、可哀想に思えた。
私はこの職場にいるだけで、こうして必要とされることもあるのかと思うと、ハートフルな気持ちになった。
ところが少々ショッキングな話も耳にした。
大抵の利用者さんにはご家族がいて、一人暮らしの方は一人もいないとのこと。
それについては安堵したのだが、実のところ家に居場所が無い方も大勢いるそうだ。
結局、家族が面倒を見たくない、仲が悪い等の理由でリハビリセンターに通っているケースも多々あるとのこと。
だから尚のこと、皆さんリハビリセンターのことが大好きなのだそう。
かといって我が儘な利用者さんはおらず、皆さん健気である。
利用者さんにとって、ここはオアシスなのだ。
そう考えると、精一杯楽しませてあげようと思う次第である。
そして、沢山話を聴いてあげたい。
お風呂に入ってサッパリとして、美味しいご飯を食べて、レクレーションして、また楽しみに来て欲しい。
たった二日目で生意気なのだが、すっかりスタッフの一員になった。
女は死ぬまで女である。
そんな簡単なことをわかっていて、何故今まで女性スタッフを入れなかったのか?
もしかしたら続かなかったのかも知れない。
利用者さん方が我慢していたのかも知れない。
たまたま、私には声を掛けやすいのかも知れない。
「ピンクのブラウスがとても素敵ですね!」
私がそう言ったら、女性の利用者さんがこのように話してくださった。
「もう十年前のものよ、服なんて買ってもらえないのだから」
「あら、物持ちがいいのですね!お手入れが行き届いているから」
「九十歳にもなる婆さんのブラウスを褒めてくれてありがとう」
何気ない会話だが、一つ一つの会話の中にも愚痴が込められていると、吐き出してくれたことを嬉しく感じた。
誰にも言えない愚痴や不満を沢山抱えているのかも知れない。
せめてここにいる時、私の前では楽になって欲しいなと思った。
流れ作業にならず、一人一人を大事にしたい。
何より、女心なら私にもわかる。
私だって、死ぬまで女であり続けたいから。