出社すると、スタッフの皆がとても心配してくれていた。
「怪我大丈夫?」
「肋骨にヒビが入ってしまって…」
「それは長引くよ!俺は、事故が起こった時、救急搬送するべきかずっと考えていたんだよ」
私が想像していた以上に皆は心配してくれていた。
「このまま辞めちゃうのかと思ったよ」
「いやいや、私は戻ってきたいんですよ」
取り敢えず、新人指導ということで呼ばれたわけだ。
怪我が完治していなくても、それくらいならできると思ったからだ。
実際入浴介助の仕方を教えようと思ったら、私より手慣れた手つき。
高身長で体格も良く、女性スタッフとは思えない軽快さだった。
私などは身長が低いし力がないためオーバーな動きしか取れないのに対して、彼女はしなやかだった。
そもそも、新人とはいえ介護や医療関係の経験者だそうだ。
そりゃ慣れているわけだ。
利用者さんとのコミュニケーションの取り方も上手いし、私が教えることはないんですけど。
結局、利用者さんが少なかったのと、スタッフが多かったのもあってスタッフの一人が私に声を掛けた。
「今日は辛かったら早退してもいいよ」
「ん~、まぁ、いてもできることないですしね。ここまで何もできないとは思っていませんでした」
「仕方ないよ」
「…そうですね。早退させて頂きます」
「わかった。帰る前に施設長のところに寄ってもらえるかな?」
「わかりました」
そうして私は施設長のところへ行った。
「ご迷惑をお掛けして申し訳ございません」
「そんなことはいいんだよ、肋骨のヒビはなかなか治らないらしいな。でもな、仕事と身体を天秤に掛けた時、身体を選ばなきゃダメなんだぞ」
「はい、ありがとうございます。怪我のことだけではなく、いつまでも休んでいたらこの職場に居場所がなくなるのではないかと不安でした」
施設長はギョッとした目をしてこう言った。
「居場所云々は考えるな!!誰かに何か言われたのか?」
「誰からも何も言われていません。色々と心配になって…」
やれやれといった表情で施設長は続けた。
「とにかく橋岡さんのことは、一戦力として考えている。心配しないでまずは身体を治すことだ。生活もあるし、焦る気持ちはわかる。ただ、焦って悪化するのが一番怖いんだよ」
施設長は、実はいい人だった。
ここは施設長の話を信じて、思い切って休みを戴いた方がいいのではないかと思った。
こうして私は情けなく早退してきたわけだ。
かかりつけの整骨院へ行ったら、生憎医院長が接客中だった。
職場でどうだったか報告するはずだったが、できなかった。
仕方がないから月曜日の予約を入れて、帰宅した。
私は職場で幾つもの不安を抱えることとなった。
身体が使い物にならないのもそうだが、三週間以上休んでいたため仕事の内容を忘れてしまっていた。
一日でも書かない日があれば書き方を忘れるのと似ているのかも知れない。
利用者さん達は、とっくに私は辞めたのだと思っていたそうだ。
スタッフは利用者さんに私のことを訊かれても、風呂場で転倒事故が起こったなんて言えるわけがない。
体調不良でお休みしているとしか言えないそうだ。
きっと、このまま来ないのだろうなと思っていたそうだ。
致し方ない。
私が現れても、表情を変えることもなかった。
人に期待してはいけないとはこう云うことなんだなと思った。
恐らく年内は行けないだろう。
なんという師走。
負傷中のスポーツ選手ってこんな感じなのだろうか。
もしかしたら、身体のメンテも大切だが、精神面のケアも大切かも知れない。
こんな時だからこそ、私は書く。
書くことで精神の安定を図る。
構想を練って、書き始める。
天は、今こそ書け!と仰っているのだろう。
そのための時間を与えられたと思うしかない。