nakanakadekinai's diary

単なる日記でもなければ、単なるエッセイでもない

涙が一筋

夕飯後、手が空く。

私は今日も「偽善」の違和感に溺れながらパソコンに向かう。

一見すると平和な日常。

何事もない幸せな生活。

しかし私は底の底から偽善を感じざるを得ない。

良き妻を演じ、何事も無かったように振る舞う。

実は午前中、月一の通院日だった。

医師からこの一ヶ月はどうだったかと訊かれる。

 

「私が作った鍋のスープが辛いとブチ切れられ、突然家じゅう掃除機をかけられました。何故かと訊いたら私が怠けているからだと。イライラするそうです」

 

医師はやれやれとした表情で私にこう言う。

 

「何もわかっていない旦那さんですね。怠け者ではなく、できないのです」

 

私は医師とは二年以上の付き合いになる。

そう、此処に引っ越して来てからだ。

最初はこれでも医者かよと思っていた。

ところが最近になって、ほんの少し私に理解を示してくれるようになった。

恐らくバックレる患者が多い中、二年半真面目に通院しているからだろう。

知らず知らずのうちに向こうも心を開いたのか、それとも私を信用するようになったのか。

いずれにしろ、亭主はダメだとわかったらしい。

 

「旦那さんの機嫌が悪くなったら距離を置いて自分を守りなさいな」

 

どうやら医師は最低レベルの話は理解したようだ。

最初はまるで私の話を聞き入れなかった。

 

「結婚なんてお互いに縁があってするものであって、理解を求めるものではない」

 

医師がどこまで私のことをわかったのか知らないが、私には同じ屋根の下にある程度の理解者がいるのがベストだとわかってくれたらしい。

理解なき者で私を罵るならば、いっそのこと一人の方がマシだ。

医師の言葉の端々からは、上手く利用しろよと云うようなニュアンスが伝わってきた。

試しに私は帰ってきた者にこう伝えてみた。

 

「今日、病院へ行ってきたの」

 

実に興味のなさそうな表情をソッポに向け、へぇと言っていた。

やっぱりなと思った私はそれ以上のことを何も話さなかった。

医師との遣り取りについても、私の現状についても、何もかも。

尤も、病院へ行ったことを試しに話てみた自分を少しばかり恥じた。

心配して欲しいとでも今更思ったのだろうかと。

案の定、煙に巻かれて終わりではないか。

あぁ~情けない。

やはりこれからも一人で背負って行かなければならぬ問題なのだ。

誰に話して解決するでもあるまい。

ただこれだけは言える。

私が抱えているものを、今の時代ネットで調べて受け止めてくれる包容力を持つことは人に依ってはできるのではないか。

会社へ行かなければならないから病院に付き添うことはできなくとも、気に掛けてやることくらいできるのではないか。

日頃私が平気な顔をして至って普通の素振りをしているから、自分には害が無いということで放ったらかしにしているのだろう。

私はこの人に出会って直ぐに背負っているものの存在のことを伝えた。

すると私の前に共に暮らしていた女性は重度のうつ病で、自殺未遂を何度も繰り返すような人だったから、暴れなければ大丈夫と言われた。

私は最初から不安が過っていた。

その女性は貴方と一緒だったから「重度」になってしまったのではないかと。

一緒にいて益々そう思うようになった。

私かて、日に日に病状が酷くなっているように思うのである。

当の本人は自分のことしか考えない人なので、隣りにいる者のことなど気にもしないのだ。

ちょっとした変化にも、叫びにも、悲鳴にさえも気付かないのだ。

だから私は先にも申した通り、「偽善」だと言っている。

何事もなかったフリ、平穏なフリ、幸福なフリをして、重たい身体と心を引き摺っているのである。

それなのに怠け者扱いされたら堪ったものではない。

友人はこう言う。

 

「きっと、その人は現実を直視できない、受け止めきれない、逃げてばかりの人なんでしょう。現実逃避」

 

あぁ、わかってくれる人がいた。

涙が一筋、頬を伝った

 

破壊から再生へ

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