nakanakadekinai's diary

単なる日記でもなければ、単なるエッセイでもない

今だから語る

面白いという表現が適切なのかどうかわからないが、吸い込まれるように読んでいる本がある。
気付いたら午後の三時半を回っていた。
どれどれ、一旦本を閉じてパソコンに向かわなければ一日のルーティンが終わらない。
夕方には風呂に入って夕飯の支度をしなければならない。
だが、夕飯さえ食べ終わればまたパソコンに向かうことができる。
私の中での「ルール」を変えたからだ。
隣に座って延々とキャンプ動画を観ているくらいなら、スパッと立ち上がってパソコンに向かった方が得策だと考えたのだ。
ちょっとキャンプ動画に飽きてきたのかも知れない。


私は子供の頃からキャンプに親しんでいる。
それは両親の趣味でもあった。
キャンプ場ガイドを見ながらどこへ行こうかと話し合っているウチはまだマシだったが、キャンプへ行く度夫婦喧嘩だった。
といっても母親がそのキャンプ場に気に入らなかったりすると一方的に泣き叫ぶと言った方が正確だ。
とにかくほんの些細なことで、キレてしまうような人だった。
つまりキャンプへはよく行ったものの楽しかった思い出は一つもない。
ところが大人になってからのキャンプは楽しかった。
北海道ではクーラーボックスと七輪を車に積んでおくのは当たり前で、仕事後に気軽にバーベキューをしたりしていた。
短い夏を最大限楽しむべく、誰もが真剣に遊んだものだ。


そんな私が再びキャンプを始めたのは、ヒロシがジムニーに乗っているのをYOUTUBEで観たからだ。
キャンプブームが始まるか始まらないかって云う時だった。
それで晩酌中にYOUTUBEをテレビで観るようになったら、懐かしくなってまた始めたのだ。
散々キャンプ動画を揃えてしまった以上、やるしかないと思った。
そして愛犬をキャンプ場へ連れて行ってあげたかった。
この仔は近所の散歩以外、何処へも行ったことのない仔だった。
公園も、ドッグランも、何処へもだ。
私はそれが可哀想だと感じてしまった。
結果的にはただのお節介だったのだが、愛犬も楽しんでくれるに違いないと思い込んでいた。
しかし、心底楽しんでくれるかについては不安だった。
カフカのソファもないし、まだ梅雨が明けていなかったからだ。
また、犬同士の交流を持ったことのない仔だったので、隣りのサイトの犬が吠えたら落ち着いて眠れないのではないかと思ったのだ。
キャンプ当日、案の定土砂降りだった。
だけど私達は強行突破したのである。
タープも買ったし、テントさえ立ててしまえばテントの中で過ごせばいいという安易な考えだった。
そして雨の中キャンプ道具をジムニーに詰め込み、愛犬を連れて出発した。
ハッキリ言って不安だらけだった。
何故なら、初めて車に乗った愛犬は実に落ち着かない様子だった。
どうやら興奮状態だったようだ。
片道一時間半の道中、ずっと暴れていた。
今となっては引き返してキャンセルするのが先決だった。
だけどキャンプ場に着いてしまえば何とかなるという想いだった。
途中休憩を挟みながら、ペットスウェットを飲ませたり、軽く散歩をさせたりしたが、愛犬の体力はキャンプ場で力尽きてしまった。
恐らく、愛犬にとっては恐怖と暑さがダブルで押し寄せたのだろう。
人間である私はトレーナーを着ていたくらいだから、さほど暑さは感じていなかった。
ただただ愛犬の様子がおかしいからずっとなだめていたのだ。


しかしキャンプ場に着いて、直ぐと言っていいほどあっという間に愛犬は息を引き取ってしまった。
それまでに私は動物病院に電話を掛け、どのような処置をすればいいのか確かめ、とにかく身体を冷やしてやったのだがもう遅かった。
あんなに元気だった愛犬を死なせてしまったのは、私のせいだと自分を責めた。
今でもその気持ちに変わりはない。

 

破壊から再生へ

破壊から再生へ

  • 作者:橋岡 蓮
  • 発売日: 2020/12/04
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)