nakanakadekinai's diary

単なる日記でもなければ、単なるエッセイでもない

もうわかっているって!

「橋岡さんって結婚してんの?」

「してないです」

「何歳?俺、四十六歳」

「私、四十三歳」

「え?そんなに行ってんの?」

 

元ホストは、一度も結婚したことがないそうだ。

そこまで聞いたら私も言うしかない。

 

「私、三十代で一回結婚しました!夜逃げしたけど」

「夜逃げされる旦那なんてDVか何かだろ!」

「でも一円も取れなかったです」

「は?なんで?弁護士は?」

「逃げることで精一杯で」

 

元ホストはバツイチだと思っていたのだが、どうやらこの職場では私だけがバツイチのようだ。

巳年のB型だそうで、こりゃくせ者だなと思った。

通りで、下手に近寄ってこないわけだ。

女を必要としているようでそうでもないようだ。

キャバ嬢としか付き合わないのが本当か嘘かもはやわからない。

養育費払っているから金がないというのも嘘だったようだ。

私みたいな実は真面目なタイプは、嘘に振り回されると思った。

子供がいるというのも嘘だったみたいだ。

 

 

とにかくバタクソに疲れながらも蟹を売りまくったが、ノルマには届かなかった。

今月の売り上げは先月よりはマシなものの、目標を大きく下回った。

やはり、目的を持って仕事をしなくちゃ、馬力が出ない。

責任感のみで働いているような気がする。

そうじゃなくて、自分のための目標がなくちゃ。

かといって、取ってつけたような目標を掲げてもダメだ。

腹の底から湧き上がるような野望とか、そういうものがあれば強いのに。

少し前までは、私は理解者をひたすら求めていた。

まだ見ぬ理解者を信じることができた。

ところがいつからか、そこら中に理解者がいると思えるようになった。

その時手にしたのは、風と光のような達成感ではなかった。

脱力感だった。

確かにこれまで刀を振り回し、必死になって理解者を探してきた。

それはそれは大変な道のりだったのだろう。

結局私は何者にもならず、未だ一人でいる。

そのことについて、疑問を感じることもある。

虚無を感じることもある。

失望もあるかも知れない。

 

「橋岡さんって結婚しないの?」

「私、めちゃくちゃ結婚したい!」

「子供は?」

「要らん!」

 

元ホストは苦笑いしていた。

そうなんだよなぁ~、結婚したいと思ってもできるもんじゃない。

このまま当分の間はこの会社のお世話になることだろう。

色んな人から蓮さんはノルマのある営業職が向いていないと言われるが、よくよく考えたら、向き不向きなど言ってられないのである。

やるしかないんだから。

どうして私はこの期に及んで苦手分野で悪戦苦闘しているのかと泣きたくなることもあるが、今までの人生の延長だと思えばなんてことはない。

一つ一つ苦手分野を潰すかのように生きてきて、営業職も潰すことができればなんだか有利に生きて行けるような気もする。

得意分野があったとしてもその世界に飛び込んだところで遣り甲斐に繋がるとは限らない。

そう、肝心なのは生き生きしていることである。

苦手分野の中にいても、悪戦苦闘している私が輝いていればそれでいいわけで。

 

 

それにしても社長が流石にご立腹のようだ。

私がなかなか数字を出せないからだ。

申し訳ないとは思っているが、手を抜いているわけでもなく、あんまり自分を責めるとマジで落ちて行く。

 

『なんだかんだでよくやってるよ』

 

って、誰も言ってくれないことは自分で言うしかない。

結果が全てとか、もうわかっているから言わなくていいから!

右みても左見ても、結果が全てと言われているんだからもういい。

この二ヶ月間苦戦したけれど、どうやら私は芯が通っていて押しが強いようだ。

そんな武器さえ持っていればまだまだ挽回できると思っているのは私が能天気なのか?

それとも図々しいのだろうか?