nakanakadekinai's diary

単なる日記でもなければ、単なるエッセイでもない

俺とお前二人きり

飲みに行った次の日の出勤日は、私の二日酔いの話で持ち切りだった。

 

「聞いて聞いて、焼酎二杯で二日酔いになったのよ!」

「最近飲んでいなかったからじゃないの?」

 

隣にいた先輩はニタニタしながらそう言った。

 

「休みだったけど、一日死ぬ想いだったのよ」

「橋岡さんって意外と酒弱いんだね」

 

反対側にいた元ホストが話に入ってきた。

 

「私、昔はめちゃくちゃ飲んでたもん」

「あ、そんな感じはするね」

 

来月会社の飲み会がある。

楽しむためにはそれなりに飲みたいよな~。

酒が強いメンバーばかりだから、先に潰れるのは勿体無い。

かといって若い人達に合わせていたら、二日酔いで倒れてしまう。

薄めのハイボールをチビチビと飲むしかないな。

気づけばプロントにも寄らなくなってしまった。

確実に私の中で変化があったようだ。

それだけは解っているのだが、何が起こったのか自覚していない。

ただステージが変わったことだけを肌身で感じているだけである。

 

 

そうそう、全然関係ない話をしよう。

たぶん私が憧れている世界ってこういうことだと思う。

 

『この世に俺とお前二人きり』

 

この広い世界で二人しかいないような圧倒的寂しさを抱えながらもお互いに必要とし合って生きること。

とはいえ、お互いの世界があって、私は私で皆の蓮さんであること。

もはや、私はゴキブリさえも味方に付けているのである。

 

「ねぇねぇ橋岡さ~ん」

「どうした?」

「俺、来月旅行へ行くから皆には内緒で橋岡さんだけにお土産を買ってきますね」

 

それを言われて私は満面の笑みで答えた。

 

「うん、ありがとう!」

 

タメ口女にしろ、ゴキブリにしろ、あんなに邪魔臭かったのに、今ではすっかり手下である。

この職場に橋岡蓮ありき!!!

そんな私だって、職場の皆には見せない顔があるのだ。

 

 

もしかしたら見せているかも知れないが、私は個性が何故か強すぎるあまり、皆と打ち解けられず、孤立してしまうことがある。

今の職場で皆と仲良くできているのは、ある意味私が圧倒的に年上だからだ。

さらに言うならば、仲良くしようという努力の結果だと思う。

それが今まではなかなかできなかったのかも知れない。

もしくはできていたのに、自分で人気者であることに気づかなかったのかも知れない。

今となって、皆から愛されていることは解っている。

それなのに途方に暮れてしまうのは何故だろうか。

タメ口女と飲みに行って仲良くなろうが、ゴキブリが懐いてこようが、どこか私は寂しいままだ。

やはり、それは確固たるパートナーがいないからだろう。

実に多くの人が、私を励まし応援してくれている。

そして理解も示してくれている。

しかし、自ら私のパートナーになりたいと名乗り出てくる人は何故いないんだ?

私みたいなタイプは実は真面目で、デート=結婚前提とか考えるから重いのかも知れない。

私は惚れっぽいが、手に入らないとわかると『プイ』と冷める。

そして男としてではなく、人間として扱うようになるのだ。

基本的には私のことが好きな人を好きになるタイプ。

友達が私のことをこんな風に言う。

 

『人が良すぎる』

 

そうかも知れないし、優しすぎるのかも知れない。

何でも自分に都合のいいように考えるから、能天気とも言われる。

自分では、この能天気さが無ければ、きっと歪んだ人間になっていただろうと思っている。

傷つき易く繊細な心を能天気さでカバーしているのだ。

もっと言うならば、能天気だから皆が安心して近づいて来てくれるのだろう。

私が泣いていると、皆が暗く不安になってしまう。

だから私は常に笑顔でなければならない。

本当はそんな私を笑顔にさせてくれる人がいればいいのだが。

あぁ、熱帯夜。

それなのに酒を一滴も飲まないなんて、明日は雪が降るかも知れないなと思うのであった。