日曜日二十時に仕事が終わって、タメ口女を連れて居酒屋へ。
会社を出た瞬間、タメ口女は待ってましたとばかりに私に訊いてきた。
「彼氏は?いるの?」
キターーーーーー!
予想通りの質問。
その後で、これまた待ってましたとばかりの質問。
「今、幾つ?」
「四十三歳、今年の冬で四十四歳だよ」
そして私は未年であることも説明した。
タメ口女は卯年だそうだ。
注文したものは刺身の盛り合わせ。
私は黒霧島ロックを、タメ口女はカクテルを飲んだ。
なんと、二杯半しか飲んでいないのに、記憶が定かではない。
ただ、熱弁だったのは覚えている。
三十代を通り越して思うことは、三十代は二度と来ないのだからもっと有意義に過ごした方がいいと言った。
「一人が楽、一人がいい」
タメ口女はそう言っていた。
「私なんて、離婚してからずっと寂しいかも」
「蓮ちゃん結婚してたの?」
いつの間にか『蓮ちゃん』になっていた。
「してたよ、三年間だけだけど」
「どうだった?」
「お互いに一目惚れして結婚したんだけど、上手く行かなかったね」
でも、いつも一緒にいられる人がいると云うのは、安心感に繋がったという話もした。
だから結婚の嫌な部分ばかり見たわけではないと。
常に一緒にいたいタイプの旦那だったし束縛もされたけど、そういうところは寂しがり屋の私にとっては良かったと。
ただ、生活は苦しかったという話もした。
今は圧倒的に自由だけど、一人の生活は物足りないとも言った。
タメ口女はいずれ独立したいのだそうだ。
結婚より仕事を優先したいのだそうだ。
そして、やはりトップじゃないと気が済まないのだそうだ。
とにかく営業成績はトップで稼ぎまくりたいのだそうだ。
私はビリでいいと言った。
自分のノルマさえ達成すれば、それでいいと。
それより皆の笑顔が気になり、皆が仲良く楽しく仕事をしているかに気を配り、時には話題を提供したり笑わせたりしていると言った。
休憩中も携帯電話を見ないようにしていると。
それより皆とお喋りすることを優先していると。
そんな私はとある勉強会に参加しているという話もした。
タメ口女は、今まで私にマウント取ってきていたことが間違いだったことにようやく気づいたようだ。
「蓮ちゃん泊って行く?」
池袋から練馬まで電車に乗り、コンビニで缶酎ハイを一本とおにぎりを買って、タメ口女の家に行った。
私の家とは真逆で、生活感のないワンルームだった。
レオパレスのような作りで、この部屋に一人でいたら、私は病むかも知れないと思った。
結局、黒霧島二杯半と缶酎ハイ一本しか飲んでいないのだが、気づいたら寝ていた。
起きたらとんでもない二日酔いに襲われた。
止めときゃいいのに煙草を吸ったから、余計に気持ち悪くてちょっと吐いた。
それでも胃のムカムカは治まらなかった。
これは何か食べないとダメだと思い、タメ口女を連れて、練馬駅の構内にあるカフェへ行ってオムライスを食べた。
向かい酒にビールを飲んだのが逆効果だったかも知れない。
暑かったのもあって、キンキンに冷えたビールが飲みたかったのだが、実に温いビールだった。
寝不足だったのもあって、一気に睡魔に襲われた。
「じゃあね、ありがとう!」
「あ、こちらこそ、ありがとうございました」
あれ?よっぽど楽しかったのだろうか?
私がオープンマインドでフレンドリーに接したから、タメ口女も嬉しかったのだろう。
練馬から谷塚まで約一時間半かかった。
電車の中ではロックを聴く気分になれず、ムカムカする胃をさすりながら『浅川マキ』を聴いていた。
帰宅してからは無音の部屋で、二日酔いと睡魔と闘っていた。
「今度は焼肉だね!」
「うん、蓮ちゃんありがとう!」
どうやらすっかり仲良くなったようだ。