「え?蓮さん毎日の売上ノルマって五万円?」
「そう、五万円!」
「す、凄いですね!!!」
久々の友達と電話していて、当然ながら私の仕事の話になった。
営業経験のある方なので、話が弾んだ。
コールセンターの営業で一日五万円の売上を上げるのが如何に難しいかという話になった。
「蓮さん一日五万円を売り上げられるなんて、営業向いていると思いますよ!」
「向いていないと言われるけどね」
「いやいや、五万円なんて簡単に出せる数字じゃないですよ!」
「元ホストは一日十万円以上の売上を叩き出してるけどね。全国の水産会社の中でも元ホストはナンバーワンの売上らしいよ」
「蓮さんの会社、日本でもトップクラスじゃないですか!」
「実は、そうなんだよね」
そうそう、実は私の会社はトップクラスの売上を誇る。
その一員であることは、私にとっても誇りだったりする。
どうやって海産物を売っているのかについて、話は盛り上がった。
私が電話しているリストってのは、十年以上前に一度海産物を買ったことがある人。
ところが、酷い目に遭って、二度と北海道の海産物は買いたくないと云う人が九十九%だ。
たった一%のお客さんに当たるのを待っていても、五万円は稼げない。
つまり、九十九%のお客さんに如何に話を聞いてもらって、説得して熱意を伝えて買ってもらうかだ。
色んなお客さんがいるわけで、私も頭を使って、あの手この手でトークを考えているわけだ。
何故考えられるかと云うと、顧客心理を想像できるからだ。
営業って負けず嫌いが勝つと思われがちだが、私に言わせれば己との闘いだ。
稼ぐことに対する明確な目標を持っていない私が五万円のノルマとガチで戦えるのは、自分に課した最低条件の水準があるからだ。
社長にもなく、元ホストにもないものを私は持っている。
それは皆と共に心をオープンにして会話できることである。
営業電話はできても、同僚とコミュニケーションを取れない人はわんさかいる。
かといって、職場の人間関係云々を語る前にしなければならないことは五万円の売上を当たり前のように叩き出すことだ。
それが最低条件だと、自分に言い聞かせている。
ゴキブリやタメ口ちゃんは、私に勝つことを目標にしているようだ。
「橋岡さんは、ライバルです!」
「は?私がライバル?私にはライバルはいないよ。自分との闘いだから」
「橋岡さんもメンタル強いですよね~」
「お互いにね」
そもそも生き残った私とゴキブリは相当メンタルが強いはずだ。
心折れながらも休むことなく、熱を出したり体調を崩したりすることもない。
辛い辛いと言いながら、食らいついている。
この半年で、どれだけ沢山の人が消えて行ったことか。
こないだ社長が私とゴキブリのことをこう言っていた。
「獲得力がある二人だ!」
ほほぉ~、さすが社長!わかってらっしゃる!
今月の私の目標は、これまた当たり前のように百万円の売上だ。
つまり一日五万円叩き出し続ければ見えてくる数字である。
タメ口ちゃんはとにかく売りたいから税抜き価格で売る。
それをいつも元ホストから叱られている。
私が褒められるのは、何がなんでも税込み価格で売るところ。
タメ口ちゃんに一度言ったことがある。
「皆、もしお客さんだったら、自分から買いたいと思っているんだよ!」
私だったら私みたいな人からなら、一万円くらいなら付き合ってやってもいいと思うはず。
そこまで言うなら、一万円くらいなら試しに買ってみようかと思うはず。
自分に磨きをかけて、『あなたから買いたい』を目指す。
もっと言うならば、あの時あの人に騙されて良かった、と思ってもらいたい。