「蓮ちゃん、埼玉の谷塚ってどんなとこ?」
「田舎町」
「飲むところとかないの?」
「居酒屋が三軒あるだけかな」
「へぇ~見てみたい」
それを私はスルーしてしまった。
理由は簡単だ。
我が家が散らかっていたからだ。
決してタメ口女のことが嫌なわけではない。
だけどタメ口女が寂しそうにしていたのを、私は見逃さなかった。
あぁ、私ってもしかしたら一人の人間に寂しい想いをさせたのかも知れない。
かといって、私から誘ってまで我が家に招き入れるのもなんだよなぁ。
そんなことを想いながらも部屋を片付けている自分がいた。
あれ?もしかして私って招こうとしているのか?
終いには、布団の心配までしていた。
とはいえ、タメ口女には姉や親がいるわけだし、私ほど暇人ではないだろう。
というのも、私はお盆休みにどこへも行くところがないのだ。
もっと言うならば、正月なんて地獄である。
かといって自分が暇だからって、他人様を巻き込むのも違う。
そうそう、先輩が何故か突然ダウンしてしまった。
半休を取って昼で帰って、それから会社に来なくなってしまった。
私、もしかして余計なことを言って傷つけたりしたのだろうか?
仲間の中に苦しんでいる人がいると思ったら、めちゃくちゃショックだった。
まさかのまさか、私に対する恋煩いなのか?
私のことが手に入らないとわかって、ショックで寝込んでしまったのだろうか?
ただ、仮にそうだとしても、どうすることもできやしない。
そう考えると、私が苦しんでいた時、それを見ている周りの方がもっともっと苦しかったかも知れない。
やはり、人前では笑顔でいなきゃな、などと思うのであった。
じゃあ『ここ』は人前ではないのか?という話になる。
『ここ』は私が唯一『素』でいられる場所だと思っている。
そうじゃなければ、誰も読んではくれないだろうに。
かといって、会社やプライベートで鎧を被っているわけでもない。
ただ、会社の若者連中には、私の心の中など理解できるはずもない。
太陽が照っていると、暑い、眩しい、紫外線が、などと言いながらも人々は陽気になれるのである。
曇っていると、太陽の光を探し、雨が降ると止むのを待つ。
たまに私はこういうことを言われることがある。
「蓮さんは皆にとって太陽なんですね」
その自覚は大いにある。
だけど、私は心の声に対して正直すぎるところがある。
だからたまに心が泣いているのである。
それを見ている皆の方が泣いていることを知っているのだけれども。
先輩がもし、職場復帰できなかったとしたらどうしよう。
私の役目は何だろう。
私にできることはただ一つ、いつもと変わりなく皆に声をかけ、笑顔でいることだ。
一番仲良しだった元ホストのことは励ましてやろう。
でも、私が先輩に対してできることは何もない。
先輩の下した決断に、あーでもないこーでもない言わないことだ。
私が原因でダウンしたとしても、私は気にしちゃいけないのだ。
許すも許さないもなければ、正しいも間違いもない。
たかが人生、たかがコールセンターだ。
私はタメ口女に帰り道、口が滑って本音を言ってしまった。
「コールセンターで成り上がっても、たかがコールセンター」
するとタメ口女はグサッと来たような歪んだ顔をしていた。
あ、タメ口ちゃんはコールセンターで成り上がりたい人だった。
口が滑ったとは思ったが、たかが人生。
どうってことないと思い返した。
たかが人生と思えば、小さなことは気にしないでいられるかも知れない。
とはいえ、ほんの些細なことからも目を背けないのもまた人生。
それでもやっぱり、たかが人生なのである。