キャンプではとにかく爆走した。
ここぞとばかりに先輩に甘えまくってやった。
手は繋ぐわ、腕は組むわ、抱きつくわ。
ワタクシ、止められなかった。
それに対して先輩もまんざらではないようだった。
先輩は私と一緒の会社じゃなかったら、私と付き合っていたそうだ。
しかし、社内恋愛は絶対に嫌なのだとか。
だから付き合えないと言っていた。
そして元ホストのことを三回くらい訊いてきた。
私は白々しく、
「嫌いじゃないよ」
と言った。
ただ、これだけは言った。
「私は社長と元ホストのために働いている」
「なるほど、なんで?」
「社長は雇ってくれた、元ホストは私を抜擢してくれた」
だから自分のために働いているのではないのだと言った。
そこは先輩も妙に納得していた。
問題はここから。
テントの中では、先輩と二人きりだった。
私が男なら腕枕くらいしたる。
ところが社内恋愛したくないと頑なに私を拒否していたくせに、ちゃっかり私のブラジャーを外し、胸だけは揉んだようだ。
揉まれていることに気づかないフリしてあげて、私はそのまま寝た。
朝起きて、ブラジャーが外れていたので、あれは現実だったんだなどと思った。
私は寝る間際、先輩にキスしてよと言ったのを覚えている。
しかし、先輩の理性は上回ったようだ。
結局、元ホストに対してやましいことはせずに済んだ。
先輩は最寄りの駅まで送ってくれた。
私はせめてもの優しさで、キャンプ場へ帰ろうとする先輩をハグした。
酔っ払っての行動じゃないよというアプローチだった。
私って最低だなぁと思ったり、私って優しいなぁと思ったり。
私が男なら嬉しいはずだ。
でももう先輩に甘えることはないだろう。
先輩か、元ホストか、の結果が出たわけだ。
皆に反対されるとは思うが、私は十七日、元ホストと不動産回りのデートをする。
その日は元ホストに甘えていい日でしょう。
元ホストは甘えられて困るようなタマではない。
先輩みたいに理性的でもない。
必死に甘えてくる私を優しく包み込んでくれるに違いない。
まぁ、先輩も照れていたのかも知れない。
女の扱い方がまるでなってないが、まぁ三十二歳の若造だ。
仕方あるまい。
結局社員旅行は、社長と隣の会社の社長との三人部屋になった。
もうね、気の弱い私は逃げられない。
仕方ない、社長の添い寝はしないけれども、同じ部屋で寝てやるよ。
なんやらテーマパークへ行くらしい。
私は遊技で遊んだりしないとのことを言ったら、社長がこう言った。
「俺とパークゴルフやろうよ」
マジかよ?!
てか、完全に私だけ接待じゃん!
元ホストと同じ部屋なら嬉しいのに。
ただ、私は理性的ではなく、本能的だから、成り行きに身を任せてしまうだろうが。
「蓮ちゃん、飛んだりしないでね」
「絶対にそれだけはしない」
元ホスト、貴方のために私は働いているのだとは言えなかった。
社長は私を女リーダーに抜擢したいそうだ。
私は元ホストと力を合わせてやって行けるのなら、なんだってやるよ。
女を取り仕切って欲しいそうだ。
なんとゴキブリが戻ってくるそうだ。
数字上げれるヤツは何やっても許されるのかよ。
私は納得が行かないが、社長が決めたこと。
社長は厳しいようで甘いところがある。
だから私は社長に言ってやった。
「富山県で、私は、無遅刻無欠席無早退を六年続けて正社員になった」
「マジか、すごい根性だな」
「代わりはいくらでもいたんで」
「橋岡すごいな!今のこの会社に足りないものは何だと思う?」
「人事!」
「そうなんだよなぁ~これでもコールセンターの中では定着率ある方なんだよ、うちは」
そうなのか、私はただ単に元ホストを楽にさせてやりたいだけなのだが、やはり私はなかなか数字が出せない日もある。
冷やしたぬき蕎麦を食べながら、生ビールかっ喰らって、一人反省会をしたのである。