nakanakadekinai's diary

単なる日記でもなければ、単なるエッセイでもない

蓮の花入れなよ

入れ墨屋に来ている。

暇なので、これを書くことにした。

マンションの地下にある店は、美容室のような雰囲気。

施術室が幾つかあるが、客は私達だけ。

というのも営業時間外なのである。

本来は十二時から。

元ホストが無理を言って朝早くに店を開けてもらったのだ。

店員は三人。

三人の男性スタッフは、ガッツリ入れ墨が入っていた。

店主は私より少し上くらいで元ホストと同じくらい。

残りの二人は明らかに若い。

彫り師はいい死に方をしないと聞いている。

入れ墨が入っている人は肝臓を悪くすると聞いている。

でも元ホストの入れ墨はユニークで美しいと思ってしまう。

蓮ちゃんも入れなよ、と言われるが、私にはまだそんな勇気がない。

蓮の花を入れたらかっこいいとは言っていた。

悲しませる人もいないので、元ホストを好きになった記念に入れてもいいのだが、入れなくてもいいような気もする。

腰に入れるのがいいと言っていた。

どうせなら私は肩に入れたいのだが、夏場のことを考えると、コールセンターでしか働けなくなる。

私はコールセンターより対面販売の方が向いているとは前にも言ったかも知れない。

本来なら向いていないコールセンターで、よくやっていると思う。

入れ墨デビューは、本当なら、旦那になる人の名前を彫りたいのだ。

永遠を誓いたいのである。

蓮ちゃんは和彫が似合うと元ホストは言う。

可愛いタトゥーは似合わないと。

左腕に、旦那の名前を彫ることは、結婚指輪より重い。

だけど、誓いを立てることは、普遍的なものを望んでいる私にとってとても意味があることだ。

蓮の花より、やはり旦那の名前だろう。

 

 

 

この後は、サングラスを買いに行って、飯食って、病院へ行って帰る。

病院が十六時からだったので、時間にも余裕がある。

入れ墨屋は北千住の隣の町屋駅近くにある。

ここから上野に出てサングラスを買うのだとか。

元ホストは子供の頃貧乏でプレゼントをもらえなかったそうだ。

私は私のプレゼントなのに親が欲しいものを買って与えられていた。

実は私はブランドの服を着させられる子供だった。

親のエゴである。

汚しては、高いんだからと悲鳴を上げる愚かな親だった。

言うまでもなく私はブランドの服よりも愛が欲しかったのだが。

 

 

 

そう考えると、私は人からプレゼントをもらう経験が少ない。

特に男性から物をもらうことなどほとんどなかった。

だからGUCCI長財布は久々、いや、こんなに高価なものは初めてかも知れない。

いや、金のない人から高価なものをもらうのは初めてだ。

だからサングラスは安いものである。

喜んでくれるならそれでいい。

元ホストなら女客から散々もらっただろうに、そういう話は私にはしないようだ。

ただ、先日言っていた、ホスト時代はストレスが溜まらなかったとはどういうことなのから気になる。

とはいえ、わざわざ訊く必要もないような気もする。

 

 

 

そろそろ来月のシフトを出さなきゃならない。

元ホストと同じ休みにしたいけど、こればかりはそうも行かない。

私とデートして欲しいけど、ゆっくり休んで欲しいとも思うのだ。

楽な仕事ではないからなぁ。

この気持ちは母性愛なのだろう。

 

 

 

ここまで書いたら元ホストがタバコを吸いに来た。

 


「俺も蓮の花入れるから、蓮ちゃんも蓮の花入れなよ」

 


店主さんは言う。

 


「蓮の花はカッコいいですよ!花言葉がいいですからね!」

「蓮ちゃん、蓮の花の花言葉って?」

「泥に塗れることなく清く美しく咲く」

「いいね〜」

「蓮の花は苦労しないと咲けないんだよ」

「じゃあ来月一緒に入れよう!俺が背中押さなきゃ入れれないだろ?入れ墨入れたら、色々変わるし、気分も変わるから。お互いに人生長くないんだから」

「うん、わかった」

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