大変醜い女なのでございます。
だって私ったら何もかもに嫉妬して、気が狂いそうなのです。
これは明らかに私の中にある独占欲の仕業だと思うのです。
一から十まで私のものでなければ気が済まないのです。
貴方がお使いになられる歯ブラシやコップ、箸や茶碗にまでも嫉妬してしまうのです。
どこで誰と買った物かしら、そこに思い出は詰まっているのかしらと余計な妄想ばかりしている次第でございます。
私が座っているこの椅子や普段寝ているベッドも、知らない誰かが使っていた物かと思うと神経がおかしくなりそうです。
何気ない会話をしている時でさえ、私のことを知らない誰かと重ね合わせていないかしらと不安がよぎったりするのです。
私にとって、貴方の過去ほど恐ろしいものはありません。
綺麗な景色を見ていても、美味しいものを食べていても嫉妬心は消えません。
喜びを貴方と共に分かち合える楽しさにはしゃいでいる一方で、きっと貴方にとっては初めての経験ではないのでしょうねと寂しくなったりするのです。
そんな私も貴方の事を責めたり出来る立場ではございません。
私にだって経験は多々ありますし、貴方が聞きたくないような話だって沢山あるのです。
私は自分がこんなにも嫉妬深く醜い女だからこそ、人間が抱えるジェラシーというものをよく理解しているつもりです。
ですから極力貴方には、ジェラシーなんていう息苦しくて醜い感情を持たせないように配慮したいと思っております。
いつもと変わらぬ日常。
聞こえてくるのは換気扇が回る音と、キーボードを叩く音。
窓からは陽射しが入り込み、気温上昇を思わせる。
平和である。
コーヒーを飲みながら煙草を吸った。
本当に私は醜くて仕方がなく、テレビにまで嫉妬してしまうのです。
テレビに女と名の付くものが映った日には、貴方がその女を見てどう思っているのかという最も下らないことが気になって仕方がないのです。
貴方好みの女が出ている時なんて、早くコマーシャルにならないかとそればかり願っているのです。
貴方と一緒に手を繋いで街を歩いていても、どうしても貴方の視線が気になってしまうのです。
私から見ても綺麗で、男の視線を奪うような女というものはそこら中にいるわけです。
そんな女が目の前を通り過ぎた日には、ついつい自分と比較してしまって絶望感とジェラシーが入り混じった複雑な気持ちになるのです。
二度とその女と貴方が会わないこと、全くの無関係であることは百も承知の上でございます。
もしかしたら貴方はその女のことなんて気にも留めず、気にしているのは私だけという場合もあるかも知れません。
それなのにこの世にいる女という女が、貴方に近づくことが私には耐えられないのです。
決して貴方を疑っている訳ではございません。
貴方が私のことを一途に思って下さっている事は重々わかっておりますし、不満なんて微塵もございません。
私は貴方に愛されていて、とても幸せなのです。
これから先、幸せになればなるほどこの醜い嫉妬心は消えて行くものなのでしょうか。
それとも手に負えないこの独占欲というものは、愛すれば愛するほど増すばかりなのでしょうか。
万が一この嫉妬心と独占欲が増す一方だとしたら、幸せとは案外辛いものだと言ってもいいのでしょうか。
この醜い嫉妬心さえ無くなれば、私の顔はもっと見るに堪えるものになるでしょう。
嫉妬に苦しんでいる時の顔を想像すると本当に恐ろしいのです。
きっと何歳も老けて見えるでしょうし、貴方にはそんな顔を見せたくありません。
思い出とはこれから作るもの。
過去なんて消えてしまえばいい。
私は貴方と一緒になるにあたって、一切の思い出を捨ててしまう覚悟で参りました。
私には貴方の思い出を消すことができるでしょうか。
(三年前に書いた作品)