nakanakadekinai's diary

単なる日記でもなければ、単なるエッセイでもない

大好きだったのだろう

ん~、結論から話そうか。

十一時半に草加駅の改札口で義母を迎えた瞬間、こりゃダメだと思った。

何故なら私に会えてとても嬉しそうだったからだ。

満面の笑みで語り掛けてくる義母。

これは完全に私に対して心を開き、親しみを持っている証拠であると確信した。

会話が途切れることもなく、最後まで義母は楽しそうだった。

それを差し置いて、私は「実は…」なんてことは言えなかった。

頭の中で、モヤモヤしたわけでもない。

会った時に、もう今日は無理だと悟ってしまったからだ。

楽しそうにはしゃいでいる八十歳の義母を傷付けることが、私にはできなかった。

ただそれだけのことである。

自分を責めることもなかった。

これで良かったのだと思うことができた。

「いい想い出はそのままに」とはよく聞く台詞だが、そんな卑怯な話じゃない。

あと何回義母に会おうとも、私の口からは言えないということがハッキリとわかった。

だからさっさと諦めて、私も義母との食事を楽しんできた。

二人とも同じ鮭定食を食べた。

この店は、明太子で有名な店。

ご飯の量が私には多かったが、一粒残らず平らげてきた。

義母の本来の目的は、私に「イクラ」を渡すことだった。

毎年、お節を買ってくれていたのだが、今年は法事があったので見送ったとのこと。

その代わりにイクラをお裾分けしてくれたのだ。

それに加え、チョコレートとお餅まで戴いた。

草加駅まで来てくれたことや、お土産のお礼も含めて、お勘定は私が払った。

 

「あら、払ってくれるの?悪いわね」

 

とか言いながらとても嬉しそうにしていた。

私から言わせれば当たり前の話だ。

普段から義母にばかりご馳走になっているので、こんな時くらい私が払わなくてどうする。

 

 

私はその後、百円ショップに手袋を買いに行かなければならなかった。

義母はそのまま電車に乗って帰って行った。

あれだけ意気込んでいたことが一つも達成されていないのに、妙な達成感があった。

もしかしたら、二人でお会いできるのはこれで最後かも知れないが、会えて良かったと心から思った。

涙を流すこともない。

一つ感じたことは、こんなに楽しかったのに尚、別れる決意は揺るがなかったということだ。

なんだか、どっしりと腹が据わっているような感覚すら覚えた。

あぁ、私、腹決まっているんだな。

それを改めて実感しただけでも良かったように思う。

ただ、海外出版のことだけは伝えた。

静かに、淡々と、事実だけを述べてきた。

夢や将来のことなんて語らない。

今現在起きていることを、そのまま伝えただけに過ぎない。

それと、年末はキャンプへ行くということ。

これは実母には反対されている。

 

「離婚するのにキャンプは行くなんて、意味がわかんない」

 

まぁ、大抵の方はそう思うかも知れないが、私から旦那にできることの一つがキャンプだからな。

私だって寒いからキャンプなど行きたくない。

でも義母は、楽しんできなさいね、と言っていた。

 

 

百円ショップで買った手袋は、思いの外暖かかった。

ちょっとしたショップで買ったら手袋ごときで二千円以上したりする。

阿呆らしいので、百円ショップへ行って正解だった。

念のため二枚買ったのだが、二つとも気に入った。

外での収録の時はきっと寒いだろうと思って、あらかじめ用意したもの。

最近忙しかったから、ちょっとした買い物の時間がとても贅沢に感じた。

というわけで、実に楽しい一日だったわけだ。

私も義母のことが大好きなのだろう。

勿論、義母も私のことが大好きなのだろう。

せっかくお姑さんとの仲は良好なのに、勿体無いと思うかも知れないが、義母も子供ではない。

泣かせてしまうことになるが、私と義母が築いた友情みたいなものは、星のように光輝くことだろう。

そしてお互いが、胸の内でこう思うことだろう。

 

「今まで、ありがとうね!」