母さんも私もあまりにもクタクタで、誕生日ディナーをせずに解散した。
旅館で朝ご飯を食べ過ぎたのもあり、小田原でもランチを食べる余力がなく、刺身だけ食べて北千住で別れた。
気のせいではないだろう。
めちゃくちゃ暑かった。
電車の中でも暑くて暑くて、汗が止まらなかった。
ペットボトル三本持参していたのだが、母さんと二人であっという間に空になった。
母さんと別れて最寄り駅まで辿り着いた時には疲労MAXで歩けず、しばらくドラッグストアの壁にもたれ掛かってしゃがみ込んでいた。
自宅で必要なものを何とか買い込み、隣りのスーパーでトリスウイスキーと炭酸とおにぎりを買って這うように歩いて帰宅した。
化粧も落とさずに、トリスハイボールをチビチビ飲んでいると少し疲れが取れた。
小腹が空いたのでおにぎりを食べ、パソコンに向かってこれを書いている。
連日寝不足なので、早く寝たい。
あまりにも暑いので、先ほどからエアコンを入れている。
事実上、母さんの誕生日である十九日が旅行の最終日となった。
今回の旅行は、ハプニングだらけだった。
忘れ物、失くし物の嵐だった。
傘を忘れたり、部屋にジャケットを忘れたり、トラブル続きだったので、母さんが解散の決断を下した。
私としてはせっかくの誕生日なのだから、ディナーを共にしたかった。
しかし、散々ご馳走も食べたしもういいよね、ということになった。
確かに母さんの決断は正しかった。
自宅に帰ってきて一人でおにぎりを食べながらトリスウイスキーを飲んでいたら妙な安堵感に包まれた。
やはり幾ら親子とはいえ、知らない土地への旅行はお互いに気を遣うし疲れるものだ。
自宅へ帰る途中スーパーに寄ったのだが、食べたいものが全くなかった。
旅行中、贅沢しすぎたからだ。
おにぎりが一番美味しそうに見えたのだ。
母さんは私の仕事についてめちゃくちゃ心配していた。
というより人間らしい暮らしを送っていないのではないかと言っていた。
かといって生活を助けてくれるわけではないというのが私の親である。
元気で頑張れ、みたいな他人行儀なことしか言わない。
ただこういうことを言っていた。
主婦のパートや工場勤務のような仕事ではなく、その強烈な個性を発揮できるグローバルな仕事をしたらどうなの?と。
私はそのようになれるようにコツコツ動いていることは敢えて言わなかった。
なぜなら、私の仕事に口出しして欲しくないからだ。
過程は話さず、結果のみを報告すればいいと思っている。
小説『ロックンローラー』を発売したことも言っていない。
全て事後報告、もしくは、報告しなくてもいい。
なぜそんなことを想うのかというと、母さんLINE交換をしようと言ったらうまい具合にはぐらかされてしまったからだ。
写真の遣り取りがショートメールではできないから、せっかくスマートフォンを持っているならLINEにしようよと言ったのだが。
なぜ断られてしまったのかは私にはわからないが、物凄く悲しかった。
弟とはLINEしているのに、どうして私とはしたくないのだろうか。
深くは訊かなかった。
ただ、それが母さんの答えなのだなと思った。
やはり十年以上疎遠だったことや、幼少時代の溝は埋まらないのかも知れないなと考えたらショックだったが仕方がない。
煩わしいのかも知れないし、深い意味はないのかも知れない。
あまり考えないようにしようと思いながらも、やはり書いてしまった。
まだまだ認められていないというのは納得できる。
悔しいとも違うけれども、たかがLINEの件だけで人格全否定されたような気分になった。
心に土砂降りの雨が降るほど元気は残っておらず、ただただ疲れて自宅に辿り着いた。
背中に何かを背負っているようなとてつもない疲労感と共に、或る種の覚悟を決めた。
一切の言い訳は許されず、一人で生きて行くしかないとね。