nakanakadekinai's diary

単なる日記でもなければ、単なるエッセイでもない

たまには顔出せよ!

北海道から父さんが出てきたので、北千住まで会いに行ってきた。

新千歳空港からの飛行機が遅れたようだが、羽田空港から北千住行きのバスに滑り込みセーフで予定より三十分ほど早く着いたとショートメールが来た。

 

「ホテルに着きました。今、どこ?」

 

私は整骨院での施術を終えて、早めに北千住へ来ていた。

まずは父さんと入る店を予約し、二軒隣りの焼き鳥屋で時間を潰していた。

それは名古屋コーチンの店だった。

確かに安くはないけれど、ビール一杯とちょっとしたつまみを頼む分には大差はないだろうと思った。

白レバーとささみを頼んだのだが、値段の割には味は普通だった。

ただ、生ビールは『香るエール』だったので美味しかった。

待ち合わせ時間まではまだまだあったが、満腹で酔っていては父さんに悪いと思って、四十分で店を出た。

暇なのでルミネをフラフラしていた。

高い店が多く、こんな高級な服は要らないよなぁと思っていた矢先にショートメールが来たのだ。

 

「ルミネ、今行きます!」

 

そうして交番の前で待ち合わせをして、予約していた店に入った。

数ヶ月振りの再会ではあるが、話すことは大体決まっていた。

仕事を辞めたこと、怪我がまだ治っていないこと、生活は辛うじて何とかなっていること、それくらいだ。

 

「母さんは元気?」

「あぁ、まぁな」

 

特に話すことがないのである。

無口な二人だから仕方がない。

 

「北海道、寒い?」

「いや、そうでもないぞ」

「仕事、忙しい?」

「そうでもない」

 

そもそも店内が団体客で賑わっていたので、お互いの声がよく聞こえなかった。

 

「今度会った時は、おでん屋に行くか?」

「そうだね、専門店がいいね」

「北千住にあるか?まぁ、俺が調べておくよ」

「頼むわ」

 

ほらね、会話にならないのだが、いつものことである。

一組の団体が帰った。

幾らか店内は静かになった。

 

「そういえば、怪我したことを父さんにしか言わなかったから、母さん怒っているでしょ?」

 

一番気にしていたことを遂に口にすることができた。

すると父さんも重たい口を開いてくれた。

 

「俺から又聞きするより、直接教えてやれよ」

「やっぱ、そうか。どうも苦手でね」

「そんなこと言うなよ、母さんだってお前に悪いことしたと思っているんだから」

「う、うん」

 

この話がきっかけとなって、なんとなく翌朝母さんに電話をした。

結論から話すと、母さんは喜んでいた。

父さんに話した内容と、同じことを母さんに話した。

すると、煙草をやめなさいとこっぴどく言われた。

そうだね、うん、うん、わかったよ!

そう言いながら、私は片手に持っていた煙草に火をつけた。

簡単に言うけれど、喫煙者としては簡単にやめられるものでもない。

中には、仕方ないよねと言ってくれる方もいるが、やめられない人の気持ちがさっぱりわからない人もいるようだ。

できることなら私だってやめたいさ。

その気持ちはあっても一人で家にいると、吸い放題だからな。

もし次に付き合う人が喫煙者だったら、私は当分やめられないだろうな。

 

 

母さんと電話を切ってシャワーを浴びて、再び北千住へ向かった。

丸井の最上階にある回転寿司でたらふく食べた後、家電コーナーへ行き炊飯器を買ってもらった。

三合炊きで、一人暮らしにはぴったりのものがあった。

持ってなかったのか?と驚かれたが、持っていなかったのである。

無口な上、街ブラも苦手なので、早々と解散した。

荷物が大量だったのでタクシー代をくれ、タクシー乗り場で別れた。

 

 

母さんが選んでいるのかも知れないが、薄水色のセーターに千鳥格子のマフラーがよく似合っていた。

黒縁メガネは気に入っているようで、実に粋な父さんだった。

飲みっぷりも健在だった。

ただ聞き捨てならないことを言われてしまった。

ずっとずっと言われないように逃げていたことだった。

 

「たまには北海道に顔出せよ」

 

やっぱりそうだよね。

タクシーの中で、痛む胸を抑えつつ苦笑した。