nakanakadekinai's diary

単なる日記でもなければ、単なるエッセイでもない

哀愁漂う男の背中

「どこでホストやってたんですか?」

「俺?大阪、六本木、歌舞伎町」

「こてこてじゃないですか!」

 

とは言ったものの、私が元ホステスだとは言わなかった。

恐らく年齢的には私と同じくらいだろう。

妙なオーラを放った人がいる。

他のメンバーが、彼は元ホストだというのを聞いてしまったのだ。

そりゃ営業くらい容易いだろう。

私レベルでもやりこなしているんだから、こてこての元ホストからしたら楽で仕方ないだろうに。

私の正体はまだ見抜けていないようで、飲みに誘われた。

 

「橋岡さん、今度ホストクラブ遊びに行こうよ!女がいないと男は入れないんだよ!」

 

私はしばらく考えて、了承した。

どうせ退屈で、一人でプロントや定食屋で飲んでいるんだから。

焼肉屋でも付き合ってくれないかなぁ〜。

考えてみたら、元ホストで年齢が近い人ってポイント高くない?

女を沢山見てきた人から選ばれたら、それこそ喜びなんですけど。

それに私が応えるかどうかは別問題。

でも、なんだかんだで、私のことが気になるからホストクラブに誘うんだろうな。

試しに行ってみよう。

これは確実にネタになるし、人生勉強にもなる。

元ホストはこの会社では特殊な仕事をしていて、特殊な任務を背負っている。

リーダーなのかなぁ?

訊いたことはないが、喫煙所にいつもいるので会話が聞こえてきて、仕事終わりにはパチンコをしているとは知っている。

待てよ、私を誘ったのは、私のことが気になるのではなく単にこの会社に残ってもらうためなのでは?

きっとそうだ。

遂に動き出したか。

ホストクラブでどんな話をされるのだろうか。

 

 

ホストクラブと言ってもピンキリである。

何が飲めるのかと訊いてみたら、シャンパンと言われた。

実は私はシャンパンがあまり好きではない。

かといってああいう店の焼酎は鏡月だし、ウイスキーはニッカ以下だということくらい知っている。

ワインだって、四リットルの業務用だろう。

悪酔いして馬鹿騒ぎする年齢でもないから、それだったら焼肉屋か居酒屋で、まともな酒が飲みたい。

しかし、誘われている身として、そんなクソ生意気なことを言っていいのだろうか。

仮にも上司たちである。

どんな酒でも出されたら飲まなければならないってのは昭和の考え方なのかも知れない。

 

 

池袋のホストクラブはぶっちゃけ大したことがないらしい。

ハマるといけないから、池袋のしょぼいホストクラブでいいんじゃない?などと言っていた。

元ホストのポイントが高いのは沢山の女を見てきたことだけにある。

話も面白いし、酒も飲めるのなら、さらにポイントは高い。

ただ、私は現役のホストなどに興味はない。

だからホストクラブへ行ったって、男目的ではないのだ。

だったら美味い酒が飲みたいというのは普通の考えだと思う。

私は、うちの会社の上司である元ホストと飲みたいのだ。

カラオケなどではなく、静かな空間で、ガチで話がしたいのだ。

だからホストクラブは正直言って行かなくてもいい。

それを言ったらなんと言われるだろうか。

それとも、たまには馬鹿騒ぎも楽しいのだろうか。

私としては、その日元ホストと酒を飲むことよりも、その次の日の投稿でどうやって報告するかの方が楽しみでもある。

ただし、ちゃんと帰ってこれる自信がない。

皆は家が池袋だそうだ。

アパホテルでも予約しておこうかな。

 

 

私も散々と色んな人を見てきたけれど、私に選ばれる人は幸せなのだろうか。

願わくば大空を飛んでいるようなしゃがれたオヤジがいい。

顔がかっこいいより背中に哀愁漂っている人の方がいい。

ホストクラブより赤提灯で、熱燗飲んでいる人との方が馬は合う。

経営者か成功者が似合うとたまに言われるが、哀愁漂っている人は何度も失敗してきた人なんだよな。