バタクソに疲れて帰ってきた夜、サバ煮とがんもの煮物を食べながら角ハイボールを飲んでいる。
どちらも食材宅配サービスで買ったものだが、イマイチの味だった。
まぁ、レンチンのお惣菜が料亭の味なわけがない。
美味いものが食べたいけど、美味いもののために働いているわけでもない。
最近何度も言っているが、私は『納得』のために働いているのだ。
給料もポジションも納得したいのである。
やった分と結果がイコールなら文句はない。
しかし、そう簡単には納得できないだろう。
ただ、今日社長がこんなことを言った。
「たった半月で売上を倍にする女、見たことないぞ!」
僭越ながら、私のことである。
実は今月は月初がゴールデンウィークで伸び悩んでいた。
ところが十五日を過ぎた頃から私の成績は爆上がり。
半月どころか、たった十日で売上を倍にしてやったのだ。
流石の私もこの結果には納得している。
しかし、月末までまだ数日あるので気は抜けない。
何とかして成績を出し続けなければならない。
そんな私に対して、この言葉はやはり最大の励みになった。
「こんな女見たことないぞ!」
社長が素直に私のことを認めてくれたようで、何より嬉しかった。
だって、私、ただものじゃないもん。
研究に研究を重ね、営業トークを自分のものにしてきた。
これが社長の言葉だけではなく、給料とポジションに反映されれば私は納得する。
その繰り返しで私が人生に納得を重ねられれば、もうちょっと生きていたいと思えるだろう。
人間に対する見方も変わってくるかも知れない。
何より、もっと自分に期待できるようになるかも知れない。
自分を信じることと、自分に期待することは似ているようで違うような気もする。
私は自分のことを腹の底から信じているが、期待はしていない。
それは、世の中に対してとっくに幻滅しているからかも知れない。
何故なら、こんなに努力家を放っておく世の中だからだ。
せめて、数字しか見てもらえない世界ならば、数字を上げている私のことは評価すべきだ。
だから社長は間違ってはいない。
しかし、私は稼ぎたいだけではない。
何度も言うが、納得したいのだ。
もっと言うならば、正当な評価を受けたい。
今までは私のことを上司が扱いやすいかどうか、好き嫌いで判断されていたように思う。
今の会社の良いところは、良くも悪くも小さな会社であるということ。
すなわち、下にいる社員と社長の距離が近いことにある。
大きな会社では、社長の顔を見ることも殆どなかった。
だから社長の目に留まるまで何年もかかった。
それはマジでむごい日々としか言いようがない。
ただただルーティンをこなし、まだ見ぬ誰かのことだけを信じていた日々。
小さな会社ではどうやらそういうことはなさそうだ。
ダイレクトに私の努力は数字に反映され、それを社長は見ている。
他の人みたいに社長とフレンドリーになったりすることはできないが、数字を見せつけることには成功しているようだ。
「こんな女見たことないぞ!」
そうでしょう、そうでしょう!
私ってヤツは、まだまだ現役で通用するようだ。
年の功?
経験値?
いやいや、真面目さだろうな。
あとは柔軟性と吸収力。
はっきり言って、私なんて口は回らないし、滑舌は悪いし、コールセンターに向いている人間じゃない。
それでも発声練習をし、言い回しを工夫し、リズムで誤魔化して、強弱で整え、理路整然と話す。
やってやれないことないとわかった。
仕事も通勤もそうだ。
やってやれないことない。
こんな女見たことないなら、しっかりとポジションを与え、ガッチリと捕まえろよ!
必要とされたい生き物なのだから、期待してやれよ。
いつか必ずその期待に応える日が来るから。
それが私。