まさかのまさか、試食会では酒が出なかった。
会社内での飲酒は禁止になったそうだ。
そしてまさかのまさか、黙食だった。
嫌や〜つまらなさすぎ!
終わってからの喫煙所にて、いつものメンバーでくっちゃべって解散した。
そして私はいつも通り角ハイボールを引っ掛けてかえることに。
なんだかヘトヘトに疲れてしまった。
楽しみにしていただけあって落胆の疲労がデカい。
ましてや、契約はノルマ達成できず二件だった。
がっかり。
なんなんだよ、皆もがっかりしているだろうなぁ。
でも社内禁酒は仕方ない気もするし。
かといって誰かの家で酒盛りするには人数が多すぎる。
私を含め埼玉県組みもいることだし、やれやれ、仕方ないか。
それにしてもめちゃくちゃ楽しみだっただけに、私って可哀想。
会社の飲み会くらいしか楽しみが無かったのに。
ま、社長のことだからいつか飲み会を開催してくれることだろう。
肝心な海産物のお味だが、一番美味かったのが私的には塩辛だった。
サーモン、マグロ、ホタテの刺身、紅鮭、ホッケ、イクラ、松前漬、ズワイ蟹、イバラ蟹、海老、などなど色々あったが、塩辛がダントツだった。
次に強いて言うなら、ズワイ蟹かな。
だけど、そんなこと誰にも言えなかった。
塩辛なんてどこでも手に入るからだ。
酒も飲めず、周りも静かだったから私も黙々と食べるしかなかった。
東京組みは、試食会の後皆で飲みに行ったんだろうなぁ。
私は一人で角ハイボールを引っ掛けたら眠くなり、満員電車で何度も寝落ちしそうになった。
とてつもなく疲れて、フラフラでやっとの思いで帰宅した。
ゴキブリから松田聖子世代ですか?と言われた件はきっちり上司に報告した。
喫煙所で仲間にも報告した。
それで幾分気は晴れたのだが、契約件数を伸ばしたゴキブリは上司からチヤホヤされていた。
結局、何をしでかそうが、契約件数には勝てないのである。
どんなクズであれ、契約取れるヤツがヒーロー。
それも私が疲れている原因だ。
あぁ、二連休で良かったよ。
「え?アイツ橋岡さんにそんなこと言ったんすか?」
「そうなの、馬鹿すぎるでしょ?松田聖子は確か、私より二十歳くらい年上なのよ。還暦過ぎてるはず」
「何て言っていいのやら、大馬鹿野郎ですね。カスですわ」
喫煙所で仲間とそんな話をしたところで気が晴れるわけもなく。
もしかしてゴキブリからすると、四十三歳も還暦も変わらないのではないだろうか?
そう考えると、自分の価値が益々わからなくなるわけで。
何をしても元気が出ないのは、もしやこれが原因かも知れない。
ゴキブリのことはもはやどうでもいいのだ。
還暦に見られたのかも知れない事実だけが重くのしかかる。
あぁ、ゴキブリなんかに馬鹿にされる私の惨めったらしいこと。
ここまで来ると悔しくない、ただ泣きたくなるのである。
先にも書いたが、それでもカスみたいなヤツでもヒーロー。
それが現実であり、これぞ社会の縮図である。
昔、ソニンが『チヤホヤしてよ、チヤホヤしてよ』と歌っていた。
カラオケで歌いながら、なんか私みたいだなと思っていた。
まだゴキブリくらい若かった頃は、とにかくチヤホヤされたかった。
どこへ行ってもヒーローでありたかったし、アイドルでいたかった。
それなりにチヤホヤされたこともあったが、歳だけ取った。
チヤホヤされて調子に乗りながらもちゃんとヒーローになっているゴキブリを見ていると、仕方ないような気もした。
私はもうチヤホヤされなくて当たり前なんだとね。
ただ、悪いが契約さえとればヒーローにはなれる会社である。
そうか、幾つになっても目立っていたい性分なのかも知れない。
ちょっと情けないが、認めざるを得ないようなそんな気分を抱え、一人でパソコンに向かう。