話のペースを持って行かれて四十分もお客さんと長電話してしまった。
「キミは商売が上手い!」
という褒め言葉から始まった。
「キミは人の心を掴むのが上手い!」
そうか?と思いながら、話を聴いていたらディープな方向へ。
何やら八十歳近いお方で、現役の社長で働いているのだそうだ。
「お元気ですね!」
「おぉ、俺は元気だ!」
気づけば完璧に主導権持って行かれて、エロ社長の話を延々と聞く羽目になった。
相槌打ちながら話を聞いていると、今度は勘違いが始まった。
「俺たち、離れた場所で暮らしていて良かったな」
嘘でしょ?!
ワタシャ、蟹を売りたくて電話しているだけなのに。
ちょっとしつこくしたらここまで勘違いしちゃうの?
私の年齢から男性遍歴から根掘り葉掘り。
嘘を上手く付けない私は質問されるままに喋ってしまう。
まるで誘導尋問。
あんまり変なことは訊かないで〜〜〜!!!
私って、これでエロ社長に海産物売れなかったらただの痛い女だわ。
何がなんでも売らなくては!
一万円セットを売ってる場合じゃない!
やっぱ高単価商品である蟹とか海老とか本マグロ売らなくちゃ。
どうせならリピーターになってもらわなくては。
別名、私は社長さんハンターでもある。
もっと言うならば、社長キラーとも呼ばれている。
色目使っている訳ではないのに、社長さんに気に入られるのは理由があるはずだ。
エロ社長曰く、私の声には透き通るものがあるんだとか。
そして、声が正直だから長い付き合いをしてもいいと思えるんだとか。
ヤバ、私、そこまで見抜いてくれたらエロ社長を裏切れない。
誤解しないで欲しいが、八十歳近いエロ社長に惚れたわけではない。
しかし、エロ社長は私のことが気に入ったようだ。
会いに来るとか言い始めた。
その前にFAXを寄こせと云うのだ。
ホームページを見てくださいとは言ったものの、どうやらネットをやっていないらしい。
これまた社長の嘘にまんまと騙された。
よくよく考えたら、会社の社長でメールが無いわけがない。
会社にパソコンが無いわけないじゃないか。
それなのに私ときたら、FAXを送ることしか頭になかった。
「電話番号と名前を書いてFAXして頂戴ね!」
名前はいいのだが、私の携帯電話の番号書くの?
結局上司にも言えずに一人で抱え込んだまま帰宅してしまった。
つまり、私よりエロ社長はうわてだと云うことだ。
馬鹿正直で騙されやすい私のことが気に入ったのだろう。
エロ社長がどんな顔しているのか興味がないことはないが、かといってそこそこ格好が良かったらどうするんだ?
やば、私ってこう見えて押しに弱いので気をつけなくちゃ。
エロ社長に言われたことがある。
「お前な、いい男と云うのは結婚してくれる男のことだぞ」
「わかっております!」
そうだそうだ!!
エロ社長曰く、若い男が良く見えても本当に話を聴いてくれるヤツか考えた方がいいと。
私の持論としては話を聴いてくれるだけでもダメで、話をしたくなるリアクションを持っている人じゃないとダメだ。
それを相性と言うんじゃないの?
冷静になって考えると、『自己報告』して面白い人がいい訳で。
だとしたら、マシンガントークのエロ社長には地球がひっくり返ってもなびかない。
やれやれ。
それにしても電話で営業しているだけなのに、何もかも見透かされたような恥の概念は、中にはハマる人もいるのかも知れない。
やばい大人のディープな世界。
海産物を売りたいだけの女が、質の悪いエロ社長に引っかかることもあるのだろうか?
こういうことがあるから、早く誰かのものになってしまいたいと思ったりするのである。
あぁ、大人って怖っ!!!