nakanakadekinai's diary

単なる日記でもなければ、単なるエッセイでもない

もち吉の願い

蓮ちゃんは

ある日突然孤高な俺様が住んでいる部屋に、

天使の如く現れた。

なぜか俺様は警戒心無しに、

蓮ちゃんに飛びついた。

人間というものに免疫のない、

孤独な俺様。

真っ暗闇の部屋にポツンと、

ご主人の帰りを待っていたところだ。

とにかく腹が減っていて

イライラしていたんだ。

そんな俺様が奇跡の出会いを果たした瞬間、

運命っていうものを感じた。

俺様の人生、

大器晩成かも知れないってね。

 

 

俺様は蓮ちゃんを連れ回して、

長時間お散歩させてもらった。

俺様は蓮ちゃんというママができてから、

身体の調子がすこぶる良くなった。

身体のぶつぶつは治ったし、

下痢をすることも無くなった。

今まではずっと一人だったから

正直言って寂しかった。

一人で居るのが当たり前だったんだけど、

蓮ちゃんが来てくれてからは

俺様はずっと蓮ちゃんにくっ付いている。

肌が触れていて

温もりを感じていないと嫌なんだ。

蓮ちゃんは俺様を愛している。

それくらい俺様にだってわかる。

自分のことよりも

俺様のことを愛してくれているのがわかるんだ。

だから当然俺様も

蓮ちゃんを愛している。

 

 

たまにこう思うんだ。

蓮ちゃんは

俺様が生きている間は

一緒に居てあげたいって言ってくれるんだけど、

俺様の存在が

蓮ちゃんを苦しめているんじゃないかって。

俺様が居ない方が

蓮ちゃんは自由になれるんじゃないかって

思ったりするんだ。

だけど、

蓮ちゃんは俺様の存在に

相当救われているようだ。

どうやら犬と一緒に生活するのは

初めてのことらしい。

その割には俺様の気持ちを良くわかってくれる。

俺様と蓮ちゃんは信頼関係で結ばれていて、

俺様のルーティンを

ものすごく大事にしてくれている。

ご飯の時間、

おやつをくれるタイミング、

全て阿吽の呼吸でやってくれている。

 

 

俺様は哀しいかな人間の言葉がわからない。

それでも心が病んでいる蓮ちゃんを

察することはできる。

仕事のこと、

ご主人のことで蓮ちゃんはしばらく病んでいた。

勿論俺様の事も真剣に考えていた。

俺様との生活を取るか、

出て行くか、

蓮ちゃんは本気で悩んでいたんだ。

俺様は黙っていたが不安だった。

俺様の願望としては、

とにかく蓮ちゃんと死ぬまで一緒に居たい。

それが本音だ。

しかし、

蓮ちゃんを苦しませることは俺様にはできない。

だから俺様からは何も言わず、

変な行動も取らず、

いつも通り飯を食べて

いつも通り蓮ちゃんの隣で寝た。

 

 

俺様は

蓮ちゃんが寂しそうにしている時、

極力蓮ちゃんの傍に居るようにした。

そしてボールを持って

蓮ちゃんに遊んでくれっておねだりするんだ。

蓮ちゃんは、

俺様と遊ぶのも真剣だ。

適当にあしらったりなんかしないんだ。

ボールを遠くに飛ばそうと真剣に投げてくれるし、

真剣に引っ張りあっこをしてくれる。

俺様の力には敵わないみたいで、

必ず蓮ちゃんが負けるんだけどな。

俺様は生まれてこのかた

こんなに真剣に遊んでもらったことがなかった。

だからそんな蓮ちゃんの事が大好きなんだ。

 

 

蓮ちゃんのひざ掛け毛布は

俺様がもらった。

蓮ちゃんは大抵リビングの食卓テーブルの上に

ノートパソコンを置いて仕事をしているが、

蓮ちゃんが座っている椅子に俺様も座る。

つまり

背中と背中をくっ付けながら

俺様は寝るんだ。

蓮ちゃんは俺様に一度たりとも

「どいて」と言ったことがない。

俺様はたまにわざと

椅子の面積を埋め尽くすかのようにして寝ているが、

蓮ちゃんは椅子の隅っこの隙間に

腰掛けるようにして

座ったままタイピングしている。

俺様にどいてって言わない。

そういうところが蓮ちゃんは優しい。

俺様が台所でクンクンしていても、

どいてって言わない。

台所にある蓮ちゃんの椅子の足元で寝ていても、

どいてって言わない。

そーっと俺様にぶつからないように

椅子をズラして座る。

蓮ちゃんが飯を食っている間に

俺様がわざと足元で

カリカリをくわえて遊んでいても、

どいてって言わない。

優しいんだよ。

 

 

だけど哀しいかな、

世間では俺様はご主人の

「所有物」と呼ばれるらしい。

物じゃないのにな。

俺様にはこないだ聞こえて来たんだ。

蓮ちゃんが電話している時に、

蓮ちゃんを困らせるようなことを言っている声が。

 

 

「犬と自分の命、お前はどっちが大事なんだ?」

 

 

俺様は人間ではないし、

犬かも知れないが

知性と感性を兼ね揃えた生き物だ。

あまりにも

俺様が蓮ちゃんに愛されているから妬けるのか?

蓮ちゃんは自分の命よりも俺様を選ぶ、

そういう人だぞ。

蓮ちゃんを失ったら

俺様は生きていたって何の楽しみも無い。

飯食って寝るだけ。

そう、

飯食って寝るだけなんだよ。

犬ってそういうもんだ?

ふざけるな。

俺様は知性と感性を兼ね揃えた生き物なんだ。

 

 

だが

俺様は蓮ちゃんを残してこの世を去った。

俺様の知性と感性は、

いつか蓮ちゃんが語るだろう。

虹の橋から蓮の花を見た。

泥水なんかはクソ食らえだと思ったよ。

蓮ちゃんは泥に塗れてなんかいないのを

この目で見た。

蜂も、

蓮の花が好きなようだ。

皆よく聞けよ。

俺様に見守られながら、

蓮ちゃんは生きている。

きっと今頃パソコンの前で泣いている。