ノルマ達成に五百円足りなかった。
なんということだ。
どうしてこんなしょうもないことをやらかすのだろう。
夕方まで別の商材に携わっていて、十七時から海産物販売を始めた。
ノルマは一万五千円だった。
夕方からたった二、三時間で一万五千円を売るのは簡単なようで難しい。
なぜなら多くの人は夕飯の支度を始める時間帯だからだ。
十九時を過ぎると、なかなか電話にも出てもらえなくなる。
そんな中、時間ばかり過ぎて行くことに焦っていた。
もしやゼロ件なんてことにもなり兼ねない。
ヤバい、ヤバい。
最後の最後でなんとかズワイガニを二杯売った。
そこまでは良かった。
「プラス四千円でもう一杯ズワイガニ付けます!!」
そこでお客さんが渋ったので、私は五百円まけてしまったのだ。
このチャンスを逃したら、私は今日ゼロ件だ…。
「ちょっと待ってください!一万四千五〇〇円!これ以上戴きません!!!」
カーッ!!!
お客さんに負けて、プレッシャーに負けて、まけてしまった。
こうして私のノルマ達成は叶わなかった。
自分に腹が立ってしまった。
元ホストや先輩なら、間違いなくノルマ分を稼いだだろうに。
私ってヤツは、どうして肝心なところでビビッてしまうのだろうか。
敗因は、お客さんの気が変わって、やっぱりいらないと言われることを恐れたからだ。
ガッカリ。
ところがよくよく考えてみると、サービスでホッケを付けなかった。
ということは、利益は出ているということだ。
ただ、ノルマにだけ届かなかったことになる。
冷静に対応できていれば、なんとでも解決できた話。
ホッケを付けて一万五千円で売れば良かっただけの話。
私ってヘタレ。
ヘタレと云えば、こういうことを言うのだ。
先日とある方に深刻な悩みを打ち明けた。
「私、パートナーができない気がしているんです」
「え?なんで?」
①自分から誘えないから
②理想が高くなっているから
③個性が強すぎるから
④妥協ができないから
この四つの思い込みをバキバキに折りまくってもらった。
そもそも、私が自分から誘えないのはなぜか?
単純に恥ずかしいからである。
しかし、自分から誘ってみたら、相手に好意を持ってもらえるかも知れないという意識に変わった。
理想が高くなっているのはなぜか?
恐らく見ている世界が違うから、傍から見ると私は理想が高いとなっている。
私からしたら、自分と同じ人種を求めているだけなわけで。
蓮さんが求めている人は少数派、などと言う人とは単に人種が違うのでは?
という結論に至った。
ここまで来ると、話は早い。
個性が強すぎると思われるのはなぜか?
これもまた、そういうことを言う人とは単に人種が違うのだろう。
妥協ができないと感じているのも、自分と同じ人種を求めているだけだというわけだ。
妥協ができないということはどういうことか?
私の場合はこうだ。
傷ついた経験、いじめられた経験、出る杭は打たれた経験…。
つまり人の心の痛みがわかるための経験をしつつ、自分なりに成功だと確信できるものを持っている人。
そういう人が私の理想なのだ。
それを伝えたら、このように言ってくれた。
「その理想の人って、まさに『橋岡蓮』そのものじゃない!」
さらにこう付け加えてくれた。
「自分のような人がタイプと言えるというのは素晴らしいのよ!」
「それはなぜですか?」
「なぜなら、自分のことが好きじゃないと、自己肯定感が高くないと言えないからよ!」
そうか、私は私みたいなヤツが好きなんだ。
確かに私って、私みたいな人を尊敬し、私みたいなヤツに憧れて、私みたいなヤツに心を開いて…。
そして、全てを捧げてもいいと思うのだ。
なんだ、どうやらヘタレでもないようだ。
だったら、私にも何か始めることができそうだ。