仕事帰りに、先輩とタメ口ちゃんと三人で焼き鳥屋で飲んだ。
契約取ったら先輩が奢ってくれるという話だったのだ。
元ホストと隣の会社の社長さんは夜の街へ消えて行った。
私から、一緒に行こうよと誘ってみたが、楽しんできなよと言われて終わった。
結局、先輩とタメ口ちゃんと私の三人になったのだが、それなりに楽しんできた。
たまたまQPコーワゴールド錠剤を丸一日飲まなかった。
すると、悪酔いすることがなく、かえって疲労感を感じなかった。
不思議なものである。
もしかしたら逆効果だったのかも知れない。
話題の中心はやはり仕事の話になったが、何とかして笑いに持って行こうと努力してみた。
ところが、そんな私の姿はこう映ったようだ。
「蓮さんは頭良くないし、チョロい」
は?
何それ!
頭良くないのはともかく、チョロい?!
いや〜、確かに私はチョロいのかも知れない。
簡単に騙されるし、その気になるからだ。
チョロいなんて嫌や〜!!
しかし、本気で私はチョロいようだ。
なぜなら、先輩から蓮ちゃん可愛いなどと言われたのを真に受けた。
そして、先輩は私に気があるのだと思ってしまった。
きっとその単純さがチョロいのだろう。
でもそれがまた可愛いとか言われ、またまたお世辞ばかりと思いながらも、すっかりいい気になっている自分がいた。
やだ、単純すぎて本当に参る。
私は彼に誘惑的な行為をしたのだろうか?
私から誘ったつもりはない。
いやいや、本当に彼は全てを本心で言っているのだろうか?
違う、私がチョロ子になっているだけだ。
とはいうものの、私って罪深いのだろうか、などと考えながら帰宅した。
真夜中の一時の手前だった。
かなり酔ったようである。
無事に帰宅できたものの、やたらといい気分だ。
私が罪深いとしたら、チョロすぎることが罪なのだろうか。
一回りも年下の男に、コイツは簡単だと思わせるのはやはり罪深い。
こうして私は多くの人から騙されてきた。
私って罪な女、などと思い込みながら、男だけではなく女からもいいように利用されてきたりした。
あれ?
今日はいつもの私じゃないようだ。
それとも私は本来このような女なのだろうか。
飲んでる席でも、年下の二人からこう言われていた。
「蓮ちゃん、女の顔してるよ!」
それは褒められているのか馬鹿にされているのかわからないが、そう言われる度に、ニタニタと笑い、
「そんなことないよ」
などと抜かして照れていた。
そして再びこう言われるのである。
「だから俺からしたら蓮ちゃんはチョロい」
一方、タメ口ちゃんは先輩のそのような台詞を一切真に受けないのだそうだ。
まず、お世辞だと最初から決めてかかると。
そして相手の『底』が見えて、初めて耳を傾けるのだとか。
例えばこういうことだ。
「俺、今月売上足りなくてさ、助けてよ」
夢を見させて欲しい私としては、そんなことは言われたくない。
私なら口説かれたいけど、明らかに利用されるのは嫌なのだ。
果たして私とタメ口ちゃん、どっちが幸せなのだろうか?
私は正直言って、チョロい私の方が幸せのような気がした。
結局さ、私は日頃から偉そうなことを言って、持論をぶちまけているけれども、所詮はチョロ子なのである。
いとも簡単に落ちる、単純な女なのだ。
ただ、致命的なことを言えば、私はそんな私が好きなのだ。
いわば、これって純粋な証拠。
頭は良くないし、チョロいのだが、人から恨まれたり憎まれたりすることはないと思う。
私がお客さんなら、本当は海産物を買いたいのではない。
アナタからの電話にお金を払っているのよ!
だから商品説明よりも、こう言われたいのである。
「貴女の声をいつまでも聴いていたい」
そのたった一言のために数万円の蟹を買うかも知れない。