ノルマ達成できず、イライラしながら日高屋で生ビールを飲み干し、ラーメンを食べた。
すると思いの外スカッとして、皆に八つ当たりしてないかな?などと考えた。
実は夕方まで違う商材に入っていて、そこではトップの成績を叩き出した。
ところが、海産物に戻ったら一件しか獲得できなかった。
本来なら、短時間で一件でも取れれば御の字なのだが、月末ということもあり、ピリピリとしてしまった。
やめていたQPコーワゴールド錠剤にも手を出す始末。
それが、日高屋の一杯の生ビールと一杯のラーメンで気持ちが落ち着くとは。
ピリピリした私に近づく者はおらず、一人寂しく日高屋にしけ込んだ。
やれやれ。
電車に乗って座った瞬間、一気に疲れが私を襲った。
あぁ、早く帰って寝たいよ。
最近では長く寝ていられないのが悩み。
六時間で目が覚めてしまう。
あぁ、それにしても暑いよ。
別の商材に入って、そこの上司と話をした。
十二月からシフトが増えて忙しくなると言った。
だから引越しも視野に入れて考えていると。
「橋岡さん、趣味はないの?」
「趣味ですか、文章書いたりしています」
「ホホォー、それは大事なことだ」
上司の彼はバンドマンである。
私より一回り年下だが、ガタイがいいし、とてもそんなに歳が離れているとは思えない。
ハロウィンがあるからバンドマンはバンド活動が大変なのだとか。
彼も忙しそうだが、私の生活は聞いていて苦しくなるのだとか。
私がいつも会社でめちゃくちゃ疲れているからだろう。
帰宅するとこたつの上に日本酒の残りが置いてあった。
飲めば元気が出るのではないかと思って買ったものである。
二口飲んで、そのままになっている。
疲れ切った身体に日本酒を注いだって眠たくなるだけなのに。
ワインを買わなかっただけまだマシだ。
一度開けたら飲み干さなければならないからだ。
こんな状態で引越しの準備なんて、できるのだろうか。
簡単に済むならば、年内に引っ越したいとも思うが、梱包作業ができそうにもない。
社長が不動産会社を紹介してくれるそうだが、そこまで世話になったら最後のような気もする。
かといって、黙って引越すと、面倒見のいい社長を傷つけるのではないかと思ってしまう。
一言言ってくれれば安く済ませてあげられたのにと、社長なら考えるだろうから。
社長は北海道への視察から帰ってきたばかりだった。
取引先の市場などへ行ってきたとのこと。
帰ってきて朝礼でこんな話をしていた。
「自分のことが普通だと思う人はいるか?」
はて、難しい問題だ。
私は歩く常識、天然記念物、人間国宝だと思っている。
だから普通ではない。
ところが会社の皆が思っているほど、私は変わり者でもない。
いや?変わり者なのだろうか?
「橋岡、自分のことを普通だと思うか?」
「いえ、思わないです」
「だろう?」
おいおい、だろう?ってなんだ。
かといって、自分の口から社長に向かって『歩く天然記念物』とは言えなかった。
ただこの世が全員私だったら、どんなに素晴らしいかとは思う。
地球は一つ、太陽は一つ、星は無限。
海は繋がっていて、人間はそれぞれが美しい。
そんなピースフル、且つ、グローバルな私のことは皆が好きなのだろう、などと考えてはチョロ子になってはならぬなどと言い聞かせる。
社長はずっと自分がこの世で一番偉いと思っていたそうだ。
確かに天才だとは思う。
ただし種類、いや、人種が違い、次元も違うのだ。
社長には私のような広い心がないから、頭脳で勝負しているのだろう。
勉強すれば頭は良くなるかも知れないが、広い心は傷つかないと育まれない。
一歩間違えれば歪んでいたかも知れないが、真っ直ぐ育った私はやはり歩く常識、天然記念物、人間国宝だ。
あとは、数字!
それしかない。