草加市役所を出て、北区役所へ向かっている。
昨夜は元ホストともんじゃ焼きを食べに行って、その後ウチに泊まった。
それなのにまたしても何も起こらなかった。
そのことについて、やはり考えてしまった。
朝起きて、テンションが下がり、元ホストが自分のアパートへ帰っても、私は連絡もする気にならなかった。
時間かかる男だとはわかっていたけど、私はある意味せっかちだからなぁ。
本能より理性が勝つのか。
私は本能の赴くままに生きているから考えられない。
それとも私のことを信頼できないのか?
だとしたら仕方ない。
とはいえ、信頼できると思う瞬間なんて訪れるだろうか?
信頼とは、させられるものではなく、するものではないだろうか。
やはり悲しくなってきた。
勿論やりたいだけの男よりはマシだが、電車の中でカップルのような男女二人組を見ると、あの女も抱かれているのか、などと思って更に泣きたくなるのである。
しかし、元ホストとずっと一緒にいるならば、待ってあげたい気持ちにもなる。
もしかしたら、単純に、私のことがよほど大切なのかも知れない。
昔の私ならこう言っていた。
「私を抱いてくれない男なんて嫌い!」
事実、私は初恋の相手が私をなかなか抱かなかったことを理由に、振ったことがある。
その後、やりたいだけの男はウヨウヨしている現実を突きつけられ、初恋を大事にしなかった自分を恥じたものだ。
その経験から、なかなか元ホストを責められない。
せっかちな私と違って、じっくりと愛を育ててくれているのなら、これほど嬉しいことはないはずだ。
だけどやはり、しょんぼりして、あれこれ考えを巡らせている。
明らかに今までとは違う。
だからこそ、私も今までとは違う考え方を持たねばならない。
はっきり言って、私は欲望に振り回された人生だった。
欲望さえなければうまく行ったことも山ほどある。
しかし、私っていう女はそういう星の元に生まれてきたのだ。
自信満々に見える元ホストも、もしかしたら自信がないのかも知れない。
女を虜にできるほどではないのかも知れない。
そう、昔の私なら、相性が合わないなどとほざいて、一夜限りでお別れしていた。
それを元ホストくらいになると見抜いていて、怖いのかも知れん。
つまり、私は心はクソだけど、テクニックはあるみたいな男に散々と苦しめられてきた。
元ホストに限っては、その心配はなさそうだ。
だったら、もう少し寛大な心で待ってあげるべきだ。
刻一刻と、歳だけ取っていくことに、女としても焦りがあるのかも知れない。
今が全てという考えは、将来のために今を犠牲にするなどということはない。
かといって、欲望だけで突っ走ってはならない。
一人で部屋に帰ると、今朝まで一緒だった元ホストのことを考えてしまう。
この部屋に私も慣れないが、元ホストも慣れなかっただろうに。
私は眠剤があったけど、元ホストは眠れなかっただろうに。
私は夢を見て引越しをした。
私達の愛の棲家を夢見て引越しをした。
近くなったから、来てくれなければ余計に寂しくなるのはわかっていたが。
合鍵を渡すのを忘れていた。
とりあえず、ベッドを買った。
抱いてくれるかどうかもわからない男のためにベッドを買うなんて、私らしくないとは思いながらも、投資であると言い聞かせている。
何が欲しいって、愛されたいだけ。
全部丸ごと愛されたいだけ。
どんだけでも愛してやるから。
その考え方さえも変えないといけないのか?
泣けてくる。
あまりにも素っ気ない男だから、私のことが好きじゃないのかな?って普通思うよ。
でも、引越しは一生懸命手伝ってくれたなぁ。
私はただ、その姿を眺めていた。