数字上げなきゃという気持ちは誰よりもあるのに、それが結果に結びつくとは限らない。
あともう一件獲れればノルマ達成できたのだが、苦戦させられた。
ただでさえ溜まっている疲労はピークを遥かに超えて、五百円の栄養ドリンク剤を買って飲んだ。
それでなんとか乗り切って、一日を終えた。
こんな日もあるんだと悔しい気持ちでいっぱいである。
まぁ、終わったのだから、疲れを取ること最優先で考えなければならない。
幸い、休みの日なので、極力疲れを癒す予定である。
帰り道、先輩とこんなことを話していた。
「トンズラこく奴は、勘違いの責任感を持っている奴」
私はそう言った。
何故なら、役職もないのに自分が人より上でいたいと思う奴が、必要とされていないことに気づいた時に心が折れるからだ。
例の鬱男子くんがそうだった。
僕がいなきゃ職場は困るなどと抜かしながら、結局、ただのコマでしかないことに気づくと立ち直れなかった。
案の定、永遠に来ない人となった。
そんな奴をいちいち構っている社長。
まぁ、私もいちいち腹を立てないことにする。
私くらいになると、自分がただのコマであることを何とも思わないのである。
件数獲得マシーンなのだ。
プライドもへったくれもない。
数字上げなきゃ、ただのゴミである。
そんなことわかりきっている話。
働く場があることに感謝。
そこは、雇ってくれている社長に感謝。
私くらいの年齢になると、職場があることは当たり前ではない。
クビ、解雇、リストラ、左遷、なんだって経験しててもおかしくはない。
もしくは、消えていく人を沢山見てきている。
それを反面教師にしてきた人もいるだろう。
自分はこうでなきゃならない、あぁでなきゃならないと、己を律してきたに違いない。
更に、金以外の目的を持って働いている人もいる。
勉強のため、修行のため、そう言える人は強い。
謙虚だし、少々のことではへこたれない。
私は、ホップステップジャンプするためである。
いずれは、スーパー営業マンになりたい。
ちまちま海産物を売るのではなく、もっとその人の人生を決めるようなもの。
『貴女から買いたい』
それがやがて私の生き甲斐になることだろう。
そうなるために今、真剣に海産物を売っている。
シャケではなく、タラバガニ。
赤海老ではなく、ボタンエビ。
貴女からなら高額商品でも買いたいと思われるような、そんな人間になりたい。
全ては元ホストのためだったりする。
貢ぐのではない、二人の未来のため。
回り回って、この会社で働くのを初め、私の生き甲斐となるのは未来である。
そういう私は、しょぼい現実を突きつけられると心折れる。
だから、まだまだ夢を見ていたい。