苦しかった二月を振り返って、社長とガチで話し合った。
「心折れそうになることが何度もありました」
支えになったのは、元ホストとの未来と、過去の日記とは言えるわけがない。
でも社長も馬鹿じゃない。
だからわざわざ私を呼び出して、話し合いの場を作るのだ。
ぶっちゃけ、私のことが大事だからだ。
わかってる、わかっているが、私は元ホストに着いていく。
社長はそれもわかっているのだろう。
私に対して明確な『未来』を提示しなかった。
それが答えだと思った。
勿論、自分のところから独立して欲しいとは思っているはずだ。
しかし、元ホストと私が企んでいることは、社長とは縁を切って旅立つことである。
うん、それもわかっているのだろう。
腹の探り合いのような面談ではあった。
しかし、私は正直に言った。
「一生プレイヤーでは終わりたくない」
そりゃそうだろ、的な回答だった。
いずれは元ホストとと、とは言えないので、私は教育の立場に回りたいと伝えた。
恐らく、私がやりたいことは今の会社で実現できる。
ただ、元ホストとそれを実現するのだ。
社長には申し訳ないが着いて行けない。
それも社長はわかっているのだろう。
でも、会社の正社員でいる以上、味方ではいてくれるのだろう。
それが伝わって心が痛くなった。
この仕事に優しさは要らないと社長は言う。
情も要らないと。
私は優しさと情でできた人間で、そこが弱みであることも伝えた。
それは顧客心理をわかりすぎるからである。
自分が散々と顧客の立場に立ってきたからだ。
細かいところまで気づく才能は、電話営業では一ミリも通用しないと私は社長に言った。
ところが社長は、それは顔が見えない電話営業に最も必要なスキルだと言った。
声だけで、相手の状況が把握できるからだと。
わからんヤツはとことん『空気』がわからんのだと。
だから存分に発揮すればいいと言っていた。
魔の二月が終わった。
私のノルマは三月から更に上がった。
毎日七万円のノルマになった。
お前ならできると社長は言う。
はて、私にできるだろうか。
でも、私には元ホストがいる。
だからきっと大丈夫だろう。
とりあえず、三日はもち吉の入れ墨を入れに行く。
四日はゆっくり休んで、五日は社員と社長で飲みに行くことになっている。
焼き鳥屋へ行くそうだ。
それはそれで楽しみではあるが。
社長はわかっているのだろう。
皆が離れようとしていることを。
だから必死になって繋ぎ止めようとしている。
なぜ離れて行くのか?
売り上げをギャンブルで使い果たしボーナスや手当てを出さないからだろう。
それを除けばいい社長なのに。
良き人材に投資する概念がないのは、若さゆえかも知れない。
私ならガンガン投資するのに。
例えば、元ホストみたいな人にね。
一癖も二癖もあるが、金が欲しいという単純な男でもある。
それは誰よりも社長がわかっているはずなのに。